まさか、公子ママがつないでくれた?

 演じている私たちも泣いたり笑ったり、お客さんもたくさんのものを感じてくださいました。舞台というのは、非日常に見えて、実は見ている人のそれぞれの人生にいつしかしっかりと寄り添い、見終わった時には何か大きな力をもらえる。この世の中から演劇がなくならないのはそういうことなんだなあと、思います。

 さて、この俳優座とのご縁。実は私の義理の母・上田公子が、かつて、初代俳優座代表の千田是也先生の演出助手をしていたのです。14年前に彼岸に渡ってしまいましたが、生きていれば今年で95歳の義母は翻訳家でした。映画にもなった『推定無罪』や『将軍の娘』の原作など、アメリカの法廷モノやミステリーの翻訳を得意としていました。義母のチョイスする言葉はセンスがあってかっこよくてほんとうに面白く、読書家だった俳優・児玉清さんも大ファンを公言していらしたほど。その義母が翻訳家になる前、俳優座にいて千田是也先生の演出助手をしていたのです。その話は生前によく聞いていて、演劇経験があるから翻訳がこんなに面白いのかなあと義母の翻訳本を夢中で読んだのを思い出します。

 今回、終わりを迎える俳優座劇場の舞台に出ませんか? と言われた時に、ハッとそのことを思い出し、面白すぎて仲良しすぎて私のことをいつも心から応援してくれていた公子ママのことを一番に思い出しました。まさかママがつないでくれた?……そう思わずにはいられませんでした。

 そんなことを夫と話していたら、夫がネットでいろいろ検索してきて、「なんとママは千田是也さんと一緒にオペラの演出もたくさん手掛けていたんだなあ」と言うではありませんか。昭和音楽大学オペラ研究所が公開しているオペラ情報センターで「上田公子」を検索すると、千田是也さん率いる俳優座舞台美術チームや演出家の栗山昌良さんらの演出助手として「リゴレット」「薔薇の騎士」「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「椿姫」などオペラの名作の制作に参加していました。いずれも1955年から57年にかけて。58年に夫が生まれる直前まで精力的に活動していたことがわかりました。詳細を見てみると、美術は、かの妹尾河童さん、衣装は、かの緒方規矩子さんなどすごいメンバー!

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「でかした、陶子!」って言ってくれたかな…