中学受験の競争激化も必至

 また、東京都では、やはり24年度から実質無償化にしたら、25年度の全日制都立高校の一般入試の倍率が1.29倍と、1994年度以降で最低となった。

 もし、全国で無償化が実施されれば、日本中で急激な公立離れが起きる可能性が高い。そうなれば、公立高校が財政的にさらに苦しくなり、その質が落ちる。その結果、さらに私立に流れるという悪循環に陥れば、最終的には、公立高校の教育崩壊というのも杞憂とは言えないだろう。

 公立高校がなくなると地方の人口減少に拍車がかかるという指摘もある。24年5月時点ですでに公立高校が存在しない市区町村が28.9%、1校のみの市区町村が35.0%に上っている。高校の存在は、人口減少を食い止める「ダム効果」があるとされるが、それが失われて、地方創生とは反対の効果が生じることが懸念されるのだ。

 この他にもここでは書ききれないくらい多くの問題が指摘されている。その一部を簡単に紹介しておこう。

 まず、支援金が増えると、その分だけ授業料を値上げする私立高校が出てくる可能性がある。これは最悪の状況だ。授業料以外のさまざまな費用を増加させるかもしれない。

 第2に、私立高校への志願者が増えると、財政的に楽になるため、一部の私立はあぐらをかいて努力を怠り、本来は淘汰されるべき質の低い私立高校の温存につながる可能性もある。

 第3に、元々ある程度余裕のあった私立高校に通う子供がいる世帯は、支援金増額でできた余裕金を塾代に回す可能性が高い。塾はさまざまな名目のサービスを拡大しているが、その費用は天井知らずの状況だ。これがさらに拡大すれば、公立高校にしか行けない低所得層との間で格差が拡大するだろう。

 第4に、私立ではそもそも中高一貫校が多いということが見落とされている。私立中学に入るためのお金がない家庭では、高校だけ無償化すると言われても行きたい私立高校につながる中学への受験ができないために結局行けないということが起きる。それを防ぐためには、私立中学も無償化しろということになる。その結果、中学の受験競争が激化するのは必至だ。

 中学を無償化しなくても、高校が「タダ」なら、中学受験にもっとお金がかけられるということになって、さらに受験戦争が激しくなるかもしれない。

 無償化の対象になる私立高校は、高校からの募集枠をかなりの規模で設けるという対策などが必要かもしれない。

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維新の「よからぬ計算」があった可能性