くのう・しゅうせい/両親の激励もプレッシャーに感じたことはなく、気にも留めていなかったという。「自分で努力した以上のものは出ないから」(photo 本人提供)
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 今年、東京大学や京都大学など難関大学を突破した合格者たち。栄光をつかんだ生徒の素顔とともに、熾烈な受験競争を支えた親たちの献身から合格の秘訣をひもといてみる。

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久能秀惺さん 近畿大学附属広島高校東広島校→慶應義塾大学 環境情報学部

 久能さんが慶應義塾大に合格した要因には、中学生の時に始めたバスケットボールが大きく関わっている。地元・広島のプロバスケットボ―ルチームである広島ドラゴンフライズのユースチームで活躍するなど、本格的にバスケに打ち込んでいる。

「慶應でプレーしたい、そして僕自身が考えていた研究内容を深めていきたいという思い。バスケ、研究の文武両道を体現しやすい場所が慶應の環境情報学部だと考えました」

 久能さんが取り組んできた研究は「バスケ療育」。

「バスケットボールを活用して、発達障害者の社会的自立と精神的自立にアプローチする療育プログラムです」

 それまでは小学生向けのバスケットボールクリニックでコーチを務めるなど指導が主だったが、あるとき発達障害を扱う医師と出会い、「療育」の側面が加速する。

「小学生、中学生あわせて500人ほど見てきたのですが、僕自身が気づかなかっただけで、発達障害を抱えた人が多くいるという実態を知りました。バスケットボールはコミュニケーションが多いですし、体の末端部分まで動かす必要がある競技でもあります。コミュニケーションを介して精神的な回復などが見込めるのではないかと考えたんです」

 小学生を相手に教える過程で重視していたのは、「目の前の子どもを信じること」。しかし、同じ練習メニューではやりたくないと考える子どももいた。発達障害の子も含め、広く目を向ける必要がある、そういう社会を実現したいと考えた。「発達障害コミュニケーション指導者」資格の初級、中級を取得し、すべての子どもたちが積極的にかかわれる練習環境づくりを大切にした。

「発達障害を持った子同士で話しがちであるとか、いろんな特徴があるのですが、それが練習環境づくりの過程で自然に克服されていったんです。子どもたちにとって良い環境づくりの一歩を踏めたと思っています」

 こうした活動を東広島市長や教育長にも評価され、「スポーツでしか得られないことを子どもたちに発信していってほしい」と激励された。

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中学受験直前で交通事故に