東京・多摩ニュータウンの基幹病院、日本医科大学多摩永山病院は建て替えに向けて多摩市と協議を重ねてきた=米倉昭仁撮影

「できないとは言わないが、相当厳しい」(福田晃・越谷市長)

 こうした事態は対岸の火事ではない。独立行政法人「福祉医療機構」によると、23年度は全国の一般病院の半数が赤字だった。

 医療機関が医業活動によって得た収益から費用を差し引いた利益の割合を示す「医業利益率」は、健全経営なら3%程度といわれているが、23年度は、統計を公表している07年度以降最低のマイナス2.3%だった。

「診療報酬の仕組みに限界が来ている」と指摘する医療ガバナンス研究所の上昌広理事長=米倉昭仁撮影

診療報酬の仕組みに限界か

 病院経営にいま何が起こっているのか。医療ガバナンス研究所の上昌広理事長に話を聞いた。上理事長は「診療報酬の仕組みに限界が来ている」と指摘する。

 物価高や人件費高を背景に、ほかのさまざまな業界では「価格転嫁」が進んでいる。ところが、医療機関に支払われる診療報酬は公定価格として決まっており、医療機関の判断で物価や人件費などが上昇したぶんを上乗せできない。建て替えに必要な内部留保もたまらない。それが顕著に表れているのが首都圏の病院だという。

「中小の病院は、都心部では経営を維持できず、すでに大半が撤退しました。その状態が周辺部に広がりつつあります」(上理事長)

 いま、東京23区の医療を支えるのは、私立大学や赤十字などが経営する大病院、そして国公立病院だという。23区には資本力のある私立学校法人が経営する病院が27もある(22年10月1日時点)。都内の500床以上の病院の約3分の1を私立学校法人が開設している。

 ところが、東京の市部には私立大学病院は5つしかない。この地域で医療を支えているのは、病床数100~199を中心とした中小の病院だ。そして、これらの病院は、すでに「原価割れ」した診療報酬にあえいでいる。診療報酬を引き上げようにも、国の財政にはその余力がない。

日本医科大学多摩永山病院の移転建て替えが検討された土地。多摩市は昨年5月、建て替え計画の検討の終了を発表した=米倉昭仁撮影

「混合診療」の可能性

「医療の価格統制を緩和し、『混合診療』を認めるべきときに来ている」と上理事長は訴える。

 混合診療とは、保険診療と保険外診療(自由診療)を併用する診療方法で、現在は厚生労働省令で原則禁止されている。仮に省令を改正して、混合診療が認められれば、病院は医療に対する価格を独自に決められるようになる。

 日本医師会の松本吉郎会長は昨年5月の定例記者会見で、混合診療について、「所得や資産の多寡により受けられる医療に差をつけるもの」として、反対を表明している。

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