井の頭通りに面した東京・吉祥寺南病院は昨年9月末で診療を休止した=米倉昭仁撮影
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 必要な医療を受けられない地域が首都圏で広がりつつある。病院が減っているからだ。経営が悪化の一途をたどり、老朽化した施設を建て替える余力はなく、診療を継続できない――。病院を失った住民たちは途方にくれていた。

【実際の写真】「診療休止」の張り紙と記者会見する市長ら

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病院が消えていく

 首都圏の「街の住みここち&住みたい街ランキング2024」(大東建託)で、6年連続で「住みたい街(駅)」トップに選ばれた吉祥寺(東京都武蔵野市)。都心に近く、公園や商店が充実しているのが人気の理由のようだ。

 そんな吉祥寺で、10年ほど前から病院が次々に消えているという。

 長年暮らす吉岡諒子さん(85)はこう話す。

「高齢になると、地元に病院があることが気持ちの余裕につながるんです。今は電車やバスに乗って遠くの病院に行かなければならない。右往左往しています」

 吉祥寺では2014年に「松井外科病院」(91床)が救急と入院機能を停止し、翌年に病床廃止した。17年には「水口病院」(43床)が廃院になった。24年3月には「森本病院」(74床)が閉院し、内科クリニックになった。

診療休止を告げる東京・吉祥寺南病院の張り紙=米倉昭仁撮影

2次救急医療機関が診療を休止

 吉岡さんが特にショックを受けたのは、吉祥寺地区で唯一残った2次救急医療機関の「吉祥寺南病院」(125床)が昨年10月から診療を休止し、再開の見通しが立っていないことだ。2次救急医療機関とは、24時間365日体制で救急患者を受け入れ、手術や入院にも対応できる設備や専用病床が整った病院を指す。

「先生方とは顔見知りで、とても親切にしてくださった。夫が前立腺がんで亡くなる前、『おなかが痛い』と訴えた。病院に電話すると、『すぐに来てください』と。息子の車で行くと、病院の外で職員が車椅子を用意して待っていてくれました」(吉岡さん)

 田中邦忠さん(75)は以前、心臓病を患い、2駅離れた武蔵野赤十字病院で手術を受けた。以後、自宅近くの吉祥寺南病院で定期的に診察を受けてきた。

「地域の誰もが大なり小なり南病院のお世話になってきた。CTやMRIを含めてさまざまな設備がそろっていたので、たいがいの病気の治療はここで完結できていました。診療休止で、私は新しい病院を探さなくてはならなくなった。赤十字病院は3次救急ですから、一般診療でかかる病院ではないですし」(田中さん)

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