松井秀喜が「ゴジラ」と呼ばれる以前に、豪快な打棒から“ロッテのゴジラ”と注目を集めたのが、大豊泰昭(元中日阪神)の弟、大順将弘(本名・陳大順)だ。

 兄同様、名古屋商科大卒業後、1年間ロッテの球団職員になり、91年に日本人選手扱いで入団。1年目は出場3試合の3打数無安打に終わり、翌92年もこの年から導入された40人枠制の割りを食って、開幕から2軍暮らしが続いた。

 そんな試練を経て、ようやく1軍昇格をはたした8月18日の近鉄戦にいきなり4番DHで登場。4回に江坂政明から2ランを放ち、初安打初本塁打初打点を記録したが、皮肉にもこれが日本における最初で最後の本塁打になった。

 前年12月に結婚した大順は、年明け後に義父が体調を崩し、日本と台湾を往復しながら看病することになった夫人から帰国を要望されると、悩んだ末、退団して故国で野球を続ける道を選ぶ。兄・大豊も「家庭の事情じゃ仕方がない。向こうにもプロ野球があるし、今度は台湾で頑張って」と送り出した。

 帰国後、ドラフト1位で味全に入団した大順は、同チームが解散する99年まで7年間プレーを続けた。(文・久保田龍雄)

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