「いま子どもたちの周りは決まり事やルールが厳しく、たむろしたりする『裏の居場所』的なものがなくなっています。そうした中で、市販薬を過剰摂取するオーバードーズなど危険なものに引き込まれてしまいます。子ども食堂や地域の居場所など寄り添い型の『表の居場所』に行けない子どもたちの裏の居場所をつくり、寄り添わない支援を増やしていきたいと考えています」
これをすれば自殺はなくなるという特効薬は、残念だがない。
自殺の問題に詳しい南山大学准教授の森山花鈴さんは、「長期的な目線で対応していくのが必要な時期に入ってきている」と指摘する。
「いま自殺しようとしている子を水際で救うのも大事ですが、自殺を考えるようになる一歩も二歩も手前、つまり悩みが小さいうちから子どもの変化に気づき、子どもが追い詰められないようにすることが実は重要です」
それには子どもの居場所を少しでも多くつくり、周りの気づきの「目」を増やしていくことが大切。居場所は必ずしも物理的なものである必要はなく、安全な場であればSNSでも大丈夫だという。そうして、強くなくていいので「弱い絆」でたくさん繋がることがセーフティーネットになり得る、と森山さん。
「そのためにも、大人が余裕を持てるよう環境を整えることが必要です。物価高などで経済的にも厳しい大人が増えていますが、そうした人たちへの支援を行う。さらに、弱音を吐くことを否定するような風潮が大人を追い詰めているので、苦しんでいる大人にも、『悩んでいる時は相談しましょう』という普及啓発も重要です」
大人の生きづらさも
OVA代表の伊藤さんは、「生きづらさを抱えた子どもの背景には、生きづらさを抱えた大人がいる」と指摘し、そのためには「SOSを出しやすい社会にする必要がある」と説く。
「大人も、悩んだり苦しんだりします。それは恥ずかしいことではなく、他者に協力を求めることも恥ずかしいことではありません。一人で悩んでいる人は、周囲に話をしたり、相談窓口を利用したりしてほしい」
第3の家族の奥村さんは、苦しんでいる子どもたちに、こう呼びかける。
「今は『死にたい』と思っているかもしれませんが、そのままで大丈夫。どこかに自分らしく生きられる居場所はあります。前を向かなくてもいいから、たまに気が向いた時に、歩みを進めてほしいと思います」
自殺はその国の社会のひずみを映す鏡でもある。未来ある子どもを守るため、きめ細やかな取り組みが必要だ。悲しい数字を、一人でも減らすために。(編集部・野村昌二)

※AERA 2025年3月10日号より抜粋

