AERA 2025年3月10日号より

 例えば、地域で自殺未遂や自傷行為の経験がある自殺リスクの高い子どもを支援していたが困難になった時、チームが地域の支援者に専門的な助言をしたり、子どもへの直接支援を行う。昨年12月末までに50件の子どもとその家族を支援。対象となった子どもの自殺は「ゼロ」という。いまチームの取り組みは、全国のモデルケースとなっている。効果が出ている要因を保健・疾病対策課はこう見る。

「迅速な対応とフォローアップにより、学校の教員など支援要請者が安心感を持って生徒や保護者に対応できている。また、支援要請者だけで抱え込むのではなく、地域の様々な機関と繋げ、ネットワークで支援する体制が整えられている」

 こうして寄り添う支援もあれば、寄り添わない支援もある。

「専門的な温かい支援ももちろん大事ですけど、寄り添われるのが苦手な子がごっそり抜け落ちてしまっている感覚があります。大人を信用できなかったり、相談できるスキルがないと繋がることが難しい」

 こう話すのは、NPO法人「第3の家族」(横浜市)代表の奥村春香さん(25)。

 大学3年生の時、中学2年生の弟が自殺した。親からの厳しいしつけが原因だった。ショックでしばらく何もできなかったが、弟のように家庭環境に悩む子どもたちが気持ちを吐き出せる掲示板をつくりたいと思い、「第3の家族」の活動を始めた。こうして大学3年生の時に開発したのが匿名掲示板の「gedokun(げどくん)」だった。

「寄り添わない支援」

 最大の特徴が、「寄り添わない支援」だ。

「死にたい」

「ウザイ、ウザイ」

「もういっそ消えてしまいたい」

 こうした投稿に対し、「わかる」「エール」のボタンが用意されているだけ。返信やコメント機能がなく、誰かから攻撃されることもない。唯一、投稿内容をAIが分析して内容がハイリスクの場合は、社会資源を紹介するサイト「nigeruno(にげるの)」で児童相談所などの相談先を伝えている。

 gedokunの掲示板には中高生を中心に1カ月に5千人程度が投稿している。「わかる」「エール」をもらうことで、気持ちが楽になる子どもたちは少なくない。第3の家族では毎月アンケートを取っていて回答者の7、8割は「一人じゃないと思えた」と答えるという。今後は、学校やLGBTに特化した投稿もできるようにしたいと考えていると奥村さん。

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大人の生きづらさも