
――しかもイギリスは、ブレグジット(EU離脱)が行われて。本当にすごい時期に移住しましたね……。
ミュージシャンもめちゃくちゃ煽りをくらってますからね。たとえばレコードの売買にしても、ヨーロッパ各国のVAT番号(欧州国内で商品を販売する際に必要な付加価値税登録)を取らなくちゃいけないし、とにかく面倒くさい。物流も滞るし、いいことなんて全然ないんですよ。自分の周りは社会にも興味がある国際人が多いから「やばいよね」という感じなんですけど、ちょっと車を走らせて郊外に行くと、「移民を止めてくれてよかった」「私達の税金がEUに使われなくて清々してる」という人がいくらでもいて。だからブレグジットになったわけで、自分がいる世界は局所的なんだと常に意識してないと。
――それはアメリカや日本でも同じですよね。
世代による違いもあると思います。日本は「失われた30年(30年間止まったまま)」と言われますけど、自分も経済が成長していく感覚をまったく体験していないし、「そんなのどうでもいいから、とにかく食いっぱぐれないようにしたほうがいい」としか思わない。ヨーロッパでいうと、ベルリンの壁の崩壊(1989年)の前と後でまったく違っていて。その後に生まれた世代はいろんな国籍の人が混ざり合うのが当たり前なんですけど、その前の世代はそうじゃない。世界を西と東で分ける考え方で育った世代と自分たちでは感覚がまったく違うんですよね。環境問題や富の再分配に対する意識もそうだし、「こんなに物価が上がって、どうやって生きろっていうの?」みたいな感じもあって。それは自分の歌詞にも出てきてるんじゃないかな。
(後編に続く)
(取材・文/森 朋之)
小袋成彬(おぶくろ・なりあき)/1991年4月30日生まれ。埼玉県さいたま市出身のミュージシャン、音楽プロデューサー。立教大学経営学部を卒業後、音楽レコード会社「TOKA」を創業。国内外の様々なアーティストの楽曲プロデュースを行う傍ら、自らもアーティストとして2018年にシングル「Lonely One( feat. 宇多田ヒカル)」でメジャーデビュー。2025年1月に4作目のアルバム「Zatto」を発表し、全国5カ所を回るツアーを行なう。2025年2月27日に初エッセイ集『消息』(新潮社)を発売した。

