チャレンジが始まっても有吉の態度は変わらなかった。制限時間がある中でも、観客に対して落ち着いた態度で語りかける時間を作り、ゆったりとネタを進めようとしていた。そのこと自体に対して観客から少しずつ笑いが漏れて、有吉はほぼ独力で次々に種目をクリアしていった。同期の仲間である劇団ひとりは、有吉の意図を汲んでサポートをすることはあったが、後ろに控えるアルコ&ピースとタイムマシーン3号はほとんど何もできない状態だった。
課題に対してまともに向き合うようなパフォーマンスをすることがほとんどないまま、笑いだけを起こして、有吉は最終的に全種目をクリアしてしまった。彼らの戦いを見守っていた若手芸人たちからは「正々堂々とやっていない」という批判の声も出たが、有吉は聞く耳を持たないそぶりを見せていた。
こんな姿は久しぶり
そんな有吉の戦いぶりを見ながら、こういうモードの彼の姿を見るのは久しぶりだな、と思った。今から十数年前、有吉が毒舌キャラとして再ブレークを果たしたとき、彼は数多くのバラエティー番組に出演して、獅子奮迅の活躍をしていた。あの頃の有吉がやっていたことは、今回の『イロモネア』でやったことに近い。
それぞれの番組にゲストとして呼ばれて、番組側が想定しているところからギリギリ逸脱するような暴れ方をしてみせる。でも、それが面白いので、番組側としては有吉が出ているところを使うしかない。それは与えられた課題の中で結果を出すという優等生的な戦い方ではない。ルール無用で何が何でも死力を尽くして笑いだけをもぎ取る、というゲリラ戦の戦い方である。
今回の『イロモネア』でも、有吉が邪道に走らず、普通にパフォーマンスをしていたとしても、平均点以上の面白さは確保できていただろう。しかし、それは見ている人がワクワクするようなものにはならなかったかもしれない。
今回のチャレンジで有吉は、最小限の力だけで相手を投げ飛ばしてしまう古武術の達人のような立ち回りを見せていた。もともと有吉にはそういう力があった。あの頃の有吉と今の有吉はシームレスにつながっているので、現在では多くの人が当時の衝撃を忘れている。それを改めて思い出した。
今の有吉は多くの番組でMCを務めていて、ゲストとして出ているタレントをギリギリ枠内に収めることを職務とするようになった。そのため、かつてのように自ら牙をむき出しにして暴れるような場面はほとんど見られなくなった。今回の『イロモネア』では、久しぶりにあの頃のような「野生の有吉弘行」が見られた。そのことだけでも十分な価値があった。(お笑い評論家・ラリー遠田)
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