AERA 2025年3月3日号より

 学校関係者らに話を聞くと、「コロナ禍の影響もあると思う」という声が多かった。実際、不登校の小中学生の数は、20年度以降に約15万人も増えている。コロナ禍で集団生活の機会が不足し、考えをうまく言葉で伝えられない子が増えたり、テレワークが普及して自宅にいる保護者が増えたりしたことなども影響しているようだが、オンライン学習の充実などで学校に通わずとも勉強を進められる術が浸透したことも大きい。いじめや人間関係などの悩みで学校への足が遠のいた子らも登校しなければ勉強が遅れるという焦りは薄らいだ。また、不登校に関する情報や、起立性調節障害といった病気の認知が広がり、保護者の方も“絶対に学校に行かせなくては!”という意識ではなくなってきた。

 心身の健康や、いじめから身を守るための不登校にとってはメリットをもたらしてくれるオンラインツール。だがその一方で、これが毒になることもある。スマホやタブレット等のデバイスを通じて好きなだけ動画やゲームができてしまう環境は、まさに“楽園”。「学校に行くよりも自宅にいた方が楽しい」という状況も生んでいる。また、以前は学校に行かなければ会えなかった友達ともオンラインゲームやSNSを介してコミュニケーションが取れる。ある教員は「不登校の増加の背景には、学校に行かなくても楽しいことがいっぱいできるようになってしまったこともあるように思う」と話す。デバイスとの付き合い方をどうコントロールするかが現代の不登校問題の解決に大きく関係しそうだ。

医療と学校の橋渡し

 前出の文科省の調査でも不登校の子について、デバイスの影響とも密接に関わると思われる調査結果が出ている。「生活リズムの不調に関する相談」が全体の23%を占め、相談内容の3位となった。2位の「不安・抗うつの相談」とはわずか0.1ポイントしか差がなく、1位の「学校生活に対してやる気が出ない等の相談」との差も10ポイントほど。生活リズムの不調から、やる気をなくすことや、不安、抗うつ気味になることもあるため、これらは相互に関係するとも言える。

「学校にいるはずの時間帯は学校でできないことはやらないという約束をするのも一つの方法です」と教えてくれたのは、東京都三鷹市にあるあきやま子どもクリニック院長の秋山千枝子さんだ。同クリニックでは以前から成長や発達、集団生活についてなど子どもに関するさまざまな相談を受ける「子ども相談室」を開設していた。しかし、クリニックでの診察時間だけでは得られる情報は限られる。学校生活に課題を抱える児童生徒に向き合う場合、その子の学校での様子を知ることは子どもにとっての最適解を導く大きな手がかりとなると感じてはいるものの、学校生活の様子は保護者を介してしか受け取れない。秋山さんは学校との情報共有ができればより実現可能な支援につなげられると考えるようになったという。

学校との連携が必要だと話すあきやま子どもクリニックの秋山千枝子院長(写真:宮本さおり)
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