まるで「マスクの買い占め」の時のようだ

 昨年12月単月で見ると、全国平均のコメの相対価格は前年同月比60%上昇の2万4665円に達した。値上がりが鮮明になるにつれ、先々のコメ不足に備えわれ先に米を買い求める大勢の人の姿がニュースで報じられた。

 一方、高い価格水準に購入をあきらめる人も増えた。そうした状況から、1973年の“トイレットペーパー買い占め騒動”や、コロナショック発生直後のマスクやアルコール消毒液の買い占めを思い起こした人も多いだろう。

 コメ価格上昇要因の一つは、異常気象などでコメの収穫量が思ったほど増えない、あるいは減少したことだ。2023年夏の気温上昇の影響で、コメの育成不順が深刻化し生産量は減少した。スーパーの精米コーナーに米袋がない状態に目をつけ、もともと水稲耕作やコメの流通に関係のない事業者までもコメの流通に参入した。報道によると、ITやスクラップ業者が農家から直接コメを買い入れて流通事業に参入した。

フリマサイトで「10キロ1万円」が完売

 いわゆる“転売ヤー”の存在も価格上昇に影響しただろう。国内のオンライン・フリーマーケットでは、値上がり前に4000~5000円だった10キロ袋に入ったコメが、1万円を上回る価格で完売したケースもあった。コメの不足は“パックご飯”の値上がりにもつながった。

 円安による海外観光客の増加も、コメの需要を押し上げ、供給不足の深刻化につながった要素の一つとの見方もある。価格上昇に目をつけた利益獲得を狙う人の増加で、コメ不足と価格上昇は一段と深刻化した。わが国のコメ流通の仕組みの硬直性も、需給の円滑なバランスを難しくしたともいえるだろう。

 昨年夏場、小売店舗におけるコメ不足が顕在化したタイミングで、農水省が備蓄米の放出を実施していたなら、令和の米騒動はここまで深刻化しなかっただろう。1993年のコメ不足(当時は冷夏によるコメの生育不順でコメの供給量が減少し、価格上昇)のように、緊急的にコメの輸入を増やす選択肢もあったかもしれない。

 しかし、政府の意思決定は時間がかかった。1970年から2018年まで、わが国は減反政策(生産調整)を実施し、コメの価格を下げないようにしてきた。減反を実施する農家に対して、政府は補助金を支給し、所得が大きく落ち込まないよう配慮した。

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