限定されている流通経路も弊害に
わが国では、コメ流通経路の多様化も進みづらかったと考えられる。国内で生産されるコメは、主として各地のJAが買い上げる。それによって、農家は自ら販路を開拓する必要性から解放された。コメの生産を守るため、政府は輸入米に対する関税も高水準で維持した。
コメ不足が深刻化するに伴い、政府は慎重に備蓄米の放出を検討し、今回、最大で21万トンの備蓄米を放出する方針を示した。放出されるコメは、2024年6月時点の備蓄残高(91万トン)の23%に相当する。
3月上旬から政府は備蓄米の入札を開始し、初回は15万トンを放出する方針だ。農林水産省公表の『米に関するマンスリーレポート』によると1月時点で、向こう3カ月のコメの需給はタイト化し、価格も高くなると予想する取引関係者は増えた。価格上昇観測はかなり強かったとみられる。
備蓄米の放出は価格上昇期待を抑え、IT業者らによる買い占め、転売の減少につながる可能性を持つ。そうした効果やコメの需給バランスを確認したうえで、政府は2回目以降の放出を実施することになるだろう。3月末には、入札で供給されたコメが店頭に並びはじめるとみられる。備蓄米の放出で供給量が回復するに伴い、価格上昇圧力は少しずつ和らぐと予想される。
コメ不足は長期化する恐れ
ただ、今回の備蓄米放出の効果が、長い期間、持続するとは限らないだろう。政府は1年以内に、放出した分のコメを買い戻す方針を示した。その背景には、価格の下落が農家に与えるマイナスの影響を緩和する配慮があるとみられる。
今後、コメの供給量減少懸念が再燃し、そのタイミングで政府が買い戻し策を実行すると、コメの価格は再上昇するかもしれない。そのリスクは残る。近年、異常気象や肥料価格の上昇により、コメをはじめ食料の価格は上昇基調にある。
異常気象によるコメの供給量減少、それによる価格上昇の影響を抑えるためには、政府の備蓄だけでなく調達網の多様化を図る必要性もあるだろう。今回の米騒動をきっかけに、政府が海外からのコメの輸入増を検討する意義はあるはずだ。