「走り」を研究する東京大学大学院4年生の古川大晃選手=米倉昭仁撮影

 シューズが100グラム軽くなるごとにランニングエコノミーは約1%アップする。そのため、シューズは軽い「薄底」が主流だった。

 ナイキの厚底シューズは全く発想が異なる。厚いソールにカーボンプレートを内蔵し、その反発力によってランニングエコノミーを平均4%アップと、飛躍的に向上させた。ナイキの厚底シューズは瞬く間に世界中のランナーに広まった。

「すると、靴の性能が競技成績に与える影響を制限すべきかも、議論されるようになりました」(同)

 20年、世界陸連は競技用厚底シューズのソールの厚みを「40ミリ以下」(道路競技)とするルールを定めた。

 それでも21年の箱根駅伝では出場選手の95.7%がナイキの厚底シューズを履いた。国内外のスポーツメーカーがさまざまな厚底シューズを発売するようになった。ソールの厚みが60ミリ以上ある製品も発売された(非競技用)。今年の箱根駅伝ではアディダス(36.2%)、アシックス(25.7%)、ナイキ(23.3%)の上位3社の厚底シューズがしのぎをけずった。

 古川さんによると、「カーボンプレートを内蔵した厚底シューズはトップランナー向けに開発された靴」だという。

厚底を履きこなせる人は少ない

 だからこそ、茂成さんは「箱根駅伝などの大レースを参考にシューズを選ぶべきではない」という。

「厚底シューズを履きこなせるのは、マラソン参加者のトップ数%を占めるランナーのみ。遅くとも3時間半を切るスピードでフルマラソンを走らないと、厳しいと思います」(茂成さん、以下同)

 東京マラソンに参加するランナーの半数以上は4~6時間で完走する。3時間未満で走りきるランナーは、全体の4.7%にすぎない(19年)。

 厚底シューズはカーボンプレートの反発力を最大限、推進力に生かすため、前傾姿勢でつま先から着地する「フォアフット走法」を前提に作られている。しかし、普通のランナーはかかとから着地する「ヒールストライク走法」が一般的だ。

「普通の人でも短い距離ならフォアフット走法で走れるかもしれません。トップランナーでなければ、そのフォームを維持したままフルマラソンを完走するのは難しいでしょう」

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