『ザ・イロモネア』は番組名は人気クイズ番組の『クイズミリオネア』をもじったものだという。『クイズミリオネア』の売りは、賞金額がどんどん上がって緊張感が高まる状況下で、挑戦者がクイズに答えられるかどうかにあった。

『ザ・イロモネア』でも、緊張感が高まった状況で芸人たちが体一つで笑いを取れるかどうかが試される。そこにスリリングな面白さがあった。挑戦者がどんなにスベっても、MCのウッチャンナンチャンの2人が優しく見守ってくれることだけが、出場する芸人にとっての救いだった。

笑わない観客へのいらだち

 当時、番組を見ている視聴者の多くが、芸人が必死にパフォーマンスをしているのに、なかなか笑わない観客に対していらだちを感じていたのではないか。その気持ちはわからなくもない。ただ、笑いとは本来そのぐらいあやふやでつかみどころのなく理不尽なものなのだ。ある人にとってたまらなく面白いことが、別の人にとっては全くピンとこないこともある。

 そんなあいまいなものに人生を懸けて挑んでいるのが、芸人というものなのだ。数多くのテレビ番組に出て、華やかな舞台に立っているように見える売れっ子芸人であっても、その地位は盤石でも何でもない。一寸先は闇、スベってしまえば心に深い傷を負い、仕事を失っていくことになる。プロの芸人はいつでも裸一貫で舞台に身をさらしている。

『ザ・イロモネア』は単なるバラエティー番組ではない。芸人という野生動物が生き残りのために真剣に戦う、一種のお笑いドキュメンタリー番組なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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