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ネット上に、心無い誹謗中傷の書き込みが相次いでいる。それはときに、人の命も奪う。求められるのはリテラシー。「SNSと民主主義」の第2回は、ネットリテラシーについて考える。AERA2025年2月24日号より。
【図を見る】自分勝手な正義感 ネットの誹謗中傷の相談は10年で2.2倍増
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言葉で人は死ぬ。
1月、兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラなどの疑惑を調べる県議会百条委員会の委員だった前県議の男性が死亡した。自殺と見られている。男性は昨年11月の兵庫県知事選中ごろから、SNSでの誹謗中傷にさらされた。知事選の投開票翌日に辞職すると、「都合が悪くなって逃げた」などSNS上の攻撃が続き、追い詰められていたという。
フェイクニュース、陰謀論、そして誹謗中傷。悪意のある言葉がSNSで広がり、民主主義を揺さぶるだけでなく、人を死に追いやる。総務省の「違法・有害情報相談センター」によれば2023年度、ネット上の誹謗中傷等被害の相談件数は6463件と、10年前の約2.2倍になった。
元タレントの中居正広氏が起こした女性とのトラブルでは、中居氏から被害を受けたとされる女性のSNSには、
「中居くんを返して」
「示談金貰ったくせに」
「これで満足ですか?」
といった心無い誹謗中傷の書き込みも相次いでいる。
攻撃してスッキリ
なぜ、ネット社会で誹謗中傷が起きるのか。
ITジャーナリストで成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは、「一般的に、ネット上で誹謗中傷をする多くの人は正義感が強い人」と指摘する。
「しかしその正義感は、社会的な正義ではなく、自分勝手な正義感です」
例えば、誰かから糾弾されている人は、「こいつは悪いことをしているからみんなから責められている」「許せない」といった正義感。そのため、自分が書いているのは誹謗中傷だと気づかない。しかもその時、「相手が悪いから」と自分にエクスキューズ(言い訳)できれば、それにかこつけて正々堂々と攻撃をしてスッキリしているという。
「特にSNSの場合、集団に隠れて匿名でできます。さらに、ストレスがかかっていると、それが他人に対する攻撃性に繋がっていくこともわかっています。他人を攻撃することでストレスを発散し、うっぷんを晴らすこともあります」(高橋さん)
中居氏から被害を受けたとされる女性への誹謗中傷は、
「カーッとなって、思い込みから反射的に行動していると思います」