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そうした中、いま注目されているのが「デジタル・シティズンシップ」という概念だ。
耳慣れない言葉だが、市民(シティズン)として社会に参加するため、正しく効果的にネットを使いこなす力を育むこと。00年代初頭からアメリカを中心に発展し、いま多くの国の教育現場で広まっている。
「今の子どもたちはデジタルを流暢に使いこなします。しかし、ネットに対する必要最低限の知識、つまりネットリテラシーがあるかといえば別の話です。小学校の段階から、自分の頭と心で考え理解することで、安全にインターネットを正しく活用する使い手になれます」
と話すのは、デジタル・シティズンシップの授業を行っているイコールチャンス(東京都)代表の小川圭美(たまみ)さん。教育事業を手掛ける同社は、昨年9月から都内と高知県でデジタル・シティズンシップの授業を行っている。対象は小学校3年生から6年生。同社の社員が講師となり、各学年、年2回行う。
自律的な使い方を学ぶ
同社が行うデジタル・シティズンシップ教育には(1)メディアバランスとウェルビーイング、(2)対人関係とコミュニケーション、(3)ニュースとメディアリテラシー、(4)デジタル足跡とアイデンティティ、(5)セキュリティとプライバシー、(6)ネットいじめとヘイトスピーチ──の六つのテーマがある。この中から1回の授業につき2テーマを取り上げ、各45分ずつ行う。
授業の最大の特徴は、子どもたち自らが考えることだ。
例えば、フェイクニュースを扱う「ニュースとメディアリテラシー」の授業。
16年の熊本地震の時にSNSで拡散した「ライオンが動物園から逃げ出した」というフェイク画像を子どもたちに見せながら、講師が「インターネットは便利だけど嘘もあるようだね」と語りかける。続いて、ネットに上がっていたいくつかのニュースを子どもたちに見せ、どれが本物か見抜くワークを実施。そして「じゃあフェイクニュースかどうかを判断するにはどうしたらいいと思う?」と子どもたちに問う。すると、子どもたちは「すぐにネットニュースを拡散しない」「うのみにしない」など手を挙げて答えるという。
日本の学校は、トラブルや長時間利用を防ぐためにネットの危険性を強調する取り組みに力を入れてきた。しかし、ネットやSNSが当たり前にある今、臭いものに蓋をするのではなく、子どもの時からネットやSNSを自律的に使えるように学ぶことが大切と、小川さんは言う。
「そうすることで、フェイクニュースを見抜き、自分の意見を持ちながら他人を誹謗中傷することなく、オンラインの中でより良い判断ができる大人になれます。それは、子どもたちの人生を豊かにすることにもつながります」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2025年2月24日号
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