配偶者や親しい友人など、大切な人を亡くす体験は非常につらいものではあるが、人生の旅路の中では避けられない、自然な過程の一つといえる。受け入れるための心構えをしておくことも、高齢者には必要なことであろう。そういった喪失体験を乗り越えることで、人生を受け入れ、いつか訪れる自らの人生の終わりをも受け入れる心持ちになれるのかもしれない。

折茂肇(おりも・はじめ)医師/東京大学医学部老年病学教室・元教授、公益財団法人骨粗鬆症財団理事長、東京都健康長寿医療センター名誉院長(撮影/写真映像部・松永卓也)

加齢とともに、怒りっぽくなる?

 高齢者になると体の機能だけでなく、人格も変化すると考える人は多いだろう。一般的に、老人という言葉には「頑固」とか「偏屈」というイメージがつきまとう。高齢者の人格的な特徴として、頑固になる、怒りっぽくなるというイメージが常識のようになっているが、実際はどうなのだろうか。

 頑固、というのは高齢者に対する固定観念のようになっているが、頑固さを評価する尺度を作成し、それを用いて客観的に研究した結果では、高齢になったからといって頑固さが増すという現象はみられなかったという。別の研究で、頑固さの程度と、知能の低下との間に関係があることがわかっており、高齢者が頑固になるのは加齢によるものではなく、加齢によって認知機能が低下することによるものと考える説もある。

 用心深い、慎重になる、落ち込みやすいなどの特徴も、個人を長期にわたって観察した研究ではなく、ある時点で各世代の人を横断的に調べた比較研究によるものであり、真の意味での高齢者の特徴とはいえないだろう。

 育ってきた時代により、世代間の人格の違いがあるのは当然のことであり、世代ごとの価値観の違い、教育・文化や社会制度の違いなど、時代の違いがその世代の人格に影響しているとはいうことができる。

 高齢になって頑固さ、疑い深さといった、よくない特徴が目立ってきたのであれば、おそらく若いときから頑固だった人が、年をとることで自分を理性で抑える能力が弱まり、環境の変化などに適応できず、その頑固な面がより際立ってきたと考えるのが自然であろう。もともと柔軟な頭の持ち主で、適応能力の高い人は、おそらく高齢になってもそれほど変わらないはずで、つまり、年をとっても基本的な人格は変化しないのだ。

 怒りっぽさはどうか。それは性格が怒りっぽく変わったのではなく、周りへの不満、怒りたくなることが増えているのかもしれない。高齢者は不満に思うことも多くなるのだからそう考えてみても不思議ではない。

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