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 高齢者の人格的な特徴として、頑固になる、怒りっぽくなるというイメージが常識のようになっているが、実際はどうなのだろうか。90歳を迎えた今も現役医師として働く折茂肇医師は、「年をとっても基本的な人格は変化しない」と語る。

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 折茂医師は、東京大学医学部老年病学教室の元教授で、日本老年医学会理事長を務めていた老年医学の第一人者。自立した高齢者として日々を生き生きと過ごすための一助になればと、自身の経験を交えながら快く老いる方法を紹介した著書『90歳現役医師が実践する ほったらかし快老術』(朝日新書)を発刊した。同書から一部抜粋してお届けする(第17回)。

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「喪失体験」を乗り越えて人生を受け入れられるようになる

 人生にはそれぞれのライフステージごとに乗り越えなければならないハードルがあり、高齢者にとって最も高いハードルが「喪失体験」であると述べた。喪失体験には、健康の喪失、経済的な喪失、人的喪失、社会的役割の喪失があるが、高齢者にとってとくに大きなストレスとなるのが人的喪失、なかでも死別による配偶者や友人たちとの別れであろう。長寿社会といっても、さすがに75歳を超えると身近な人との別れの経験がない人は少ないのではないだろうか。

 とくに配偶者、つまり、かけがえのない人生の伴侶を失うという経験は、大きなショックとストレスを与え、高齢者の生活に大きな影響をおよぼすと考えられる。そのような人的喪失体験が、老年期うつや認知症を発症させる原因になり得ること、また残された配偶者の死期を早めるリスクにもなる可能性があることが、多くの医学的な研究で明らかになっている。

 配偶者を失ったことによる悲しみ、寂しさ、不安、孤独感といった精神的な問題は、不眠、倦怠感、疲労感などの身体的不調につながる。また、場合によっては経済的な困難を伴うこともあるだろう。ただ、経済的な問題や家庭生活の変化・困難よりも、やはり深刻なのは精神的な問題だ。そして、死別による影響は、女性よりも男性のほうに深刻に現れる傾向がある。

 結局のところ、大事な人を亡くした喪失感を埋めるための特効薬はなく、時間をかけて、少しずつ傷がいえるのを待つしかないのだろう。その過程で、家族や親しい友人など、気持ちを共有できる人や支えてくれる人の存在があることは重要だと思う。

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高齢者になると人格も変化するのか?