翔太さんと暮らした自宅は、がれきと化した。だが佳織さんは、日に日に崩れていくこの家を、友人たちに見に来てほしいと思っている。「痛々しく見えるかもしれないけど、私と翔ちゃんがここで生きていたことを知ってほしくて」=24年11月、佳織さん提供(撮影:はちどりphoto)

 支えてくれたのは、友人や家族だけではない。この世を去った翔太さんもまた、佳織さんに寄り添い続けているという。

「夫の遺体を見たとき、直感的に『翔ちゃんはこの中にいない』と思いました。肌のぬくもりを求めると、一人ぼっちの寂しさに引きずりこまれる。でも翔ちゃんの魂とつながっていると信じられると、心があたたかくなります。翔ちゃんは今ごろ、好き勝手にいろんなところに行って、会いたい人に会っている。そう考えるほうが、幸せなんです」

天国からのラブレターに書いてあったのは…

 翔太さんの“魂”をひしと感じた出来事がある。

 震災から間もない4月、突然天国から「ラブレター」が送られてきたのだ。届けてくれたのは、本在住のシンガーソングライター・ふたばたけしさん。翔太さんと佳織さんの共通の友人だ。

 佳織さん夫妻は23年夏、「私たちがほれこんだ自然豊かな地で是非歌ってほしい」と、ふたばさんを輪島に招き、ライブを企画した。ライブ後、翔太さんは「能登に来て感じたことを歌にして」と“むちゃぶり”し、ふたばさんは熊本に戻ってからすぐに曲を作った。だが、完成した曲を聴くことなく、翔太さんは旅立ってしまった。

ライブ翌日、ふたばさん(中央)と撮ったスリーショット=23年7月、佳織さん提供

 震災後、ふたばさんは佳織さんに聴かせてよいものか、ひどく悩んでいたという。

 理由はその歌詞にある。

<幽霊とかお化けとかそんなの全然信じられないから 僕が死んで骨になったら君が海に流してほしい 僕は海になって雲になって雨になって山に降って川になって 君の元へ君の元へ帰ってくるよ>

<死んだらずっと墓の中なんて耐えられない そもそも出不精な僕のこと引っ張り回したのは君じゃないか おかげでこんな世界のことすっかり好きになっちゃったよ>

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“心の復興”こそ真の復興