バスケットボールに夢中の波多野百香さん(小4)。チームメイトと共に自分が頑張ることができる源についてプレゼンした(写真:横関一浩)

 世界に発信するには英語力は不可欠であるが、国際社会で必要な英語力とは何か。作家の水村美苗氏はその著著『日本語が亡びるとき』の中で〈今、まだ多くの日本人の英語に対する関心は「外国人に道を訊かれて英語で答えられる」か否かにとどまる〉と述べ、さらにこう喝破する。

〈日本が必要としているのは、「外国人に道を訊かれて英語で答えられる」人材などではない。日本が必要としているのは、専門家相手の英語の読み書きでこと足りる、学者でさえもない。日本が必要としているのは、世界に向かって、一人の日本人として、英語で意味のある発言ができる人材である。必ずしも日本の利益を代表する必要はなく、場合によっては日本の批判さえすべきだが、一人の日本人として、英語で意味のある発言ができる人材である〉

 日本人の発信力の弱さは論文にも表れている。2020~24年にAIの国際学会に採択された論文約3万本の著者や所属研究機関について日本経済新聞が分析したところ、24年の首位はアメリカの1万4766人。2位が中国の8491人であった。日本勢は理化学研究所が64位で188人。何と東京大学はさらに下位で71位の171人であった。まったく話にならない数字である。

驚きのプレゼン力

 果たして、日本で英語による発信力を育成する教育が小さいころから可能なのか。筆者は昨年12月、東京・世田谷にある「Global kids英語会」が主催する「2024英語プレゼン大会」第4回を見学した。小学4年生から高校1年生までの生徒が順に英語でプレゼンを行ったが、正直そのプレゼン力に驚いた。小学4年生が、蝶を育てる実験、コメ作りの大変さとお米の大切さ、というテーマを英語でプレゼンし、パリに和食レストランを開き、和食を通して日本文化を世界に伝える夢を語った波多野莉乃さん(中1)、パリ五輪女子ボクシングでの男性染色体を持つ選手を巡っての議論からスポーツ界の多様性について語った中村朱里さん(中1)、若者の政治参加と幸福感の関係について語った大島颯真さん(中2)、今こそ東京大空襲の被害の甚大さを伝えるべきと語った高味加依さん(高1)、日本の男女格差の視点から自身の東大進学の意義を語った篠川心音さん(高1)など、大人でも難しいテーマを英語でプレゼンする姿を見て、これが日本のノーム(標準)になるべきだと確信した。

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