まだまだ続くバトル
この動きに対抗しようと、フジは今年1月、ニッポン放送の公開買い付け(TOB)を発表。現在のフジの持ち株比率(12%)を一気に過半数に高め、ニッポン放送の上場廃止を見込んでいた。
それがライブドアによって「いきなり邪魔された」(元産経新聞幹部)格好だ。もはや過半数獲得は容易でないと考えたのか、フジはその後、買い付け目標を25%超に「下方修正」した。25%超持てば、ニッポン放送が持つフジ株の議決権を無効にできる規定があるため、ライブドア側の策動を牽制できる、と踏んでのことだ。
もっとも、ライブドア側は、「フジのとりうるあらゆる対抗策を事前に想定し、こっちも打つ手を考えている」(幹部)としているだけに、バトルはまだまだやみそうにない。
ところで、ライブドアがなぜいきなり大量のニッポン放送株を買えたのか――。「わずか2時間の買収劇」と評された劇的な買い占めには、実は周到な準備と隠された真相がある。
2月8日午前8時22分、ライブドアは、東証の時間外取引でニッポン放送株の10%にあたる348万3220株を買ったのを始め、約30分間に合計6回計29%を買い集めた。
しょっぱなの348万3220株を売ったのは、米テネシー州のサウスイースタン・アセットマネジメントとみられている。同社が提出した大量保有報告書で、まったく同数の株を保有していたことが分かった。
ライブドアはあらかじめ米証券リーマン・ブラザーズに売り主を探してもらい、市場を通じて買ったと言うが、いきなり30%近い株を偶然買えたとは考えにくい。
「失念株」という存在
フジのTOB発表後の1月中には、村上氏を含む大株主に、「フジのTOB価格(1株5950円)より高い金額ならば、ウチに売る用意はありませんか」と相談に回っており、「フジより高いなら売ってもいい」という感触を一部から得ていた。こうしてサウスイースタンなどが株を放出したとみられ、2月8日の大量買い付けでは1株6050~6100円で購入した。
実は、ライブドアは昨年夏からひそかにニッポン放送株の購入を始めていた。同じ六本木ヒルズに入居する村上氏のファンドが、ニッポン放送株を買い進めるのを見て、興味を持ったようだ。
堀江氏は買い進めるうちに、不思議な株の存在に気づいていた。「失念株」といわれる株である。
昨年秋、堀江氏はアエラ記者にこんなことを語っている。
「放送法で外資が放送局の株を持つのは20%までという規制があるんですが、実は30%ぐらいもっているんですよ。『失念株』というんです。規制に触れないよう、わざと名義書き換えをしない株です。配当も議決権もないのですが、実質的に支配しています」
値上がり益を見込んで、名義を前の持ち主などにしたままの実質的な外資保有株だ。それがほとんどの上場放送局にある、という。こうした表面に出にくい外資の保有株が、堀江氏のもとに集まった可能性が高い。
外資に加えて、村上ファンドの保有分がライブドアに渡ったかどうかも焦点だが、村上氏周辺も堀江氏周辺も、
「いまの株価に影響を与える恐れがあるので、一切ノーコメント。村上氏が売ったとも売らなかったとも言えません」と口を閉ざしている。
いきなり30%近い株を誰が売ったのか。名義書き換えをしない大量の株が存在していた可能性や、本来なら5%を超えたら届け出ないといけない大量保有報告制度を回避する手法など、今回の買収劇には不透明な部分が尽きない。
「本来なら透明なはずのマーケットが実は、とても不透明だったということが浮き彫りになったと言えるでしょう。株取引のプロと個人投資家の間にものすごい情報格差がある」
あるネット証券の社長は、個人投資家を顧客とする立場から、そう嘆息した。
(AERA編集部 大鹿靖明、石川雅彦、豊間根功智)