トランプ(セバスチャン・スタン、右)は弁護士ロイ・コーンに“教育”されていく。「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」は全国公開中
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 米大統領に就任するドナルド・トランプ氏をモデルにした映画が公開されている。トランプ氏が全米公開を阻止しようとしたほどの問題作。観ると「またトラ」に至ったアメリカの姿が見えてきた。AERA 2025年1月27日号より。

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 映画「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」は若き日のドナルド・トランプがメンターとなる実在の弁護士に出会い、“怪物”となっていくまでを追う物語だ。脚本を手がけたガブリエル・シャーマンは駆け出し記者時代からトランプを取材してきたジャーナリスト。2016年のトランプ米大統領誕生を機に取材を重ねて本作を執筆した。が、映画化にあたってアメリカ人監督ではあまりにリスキー。そこで白羽の矢がたったのがイランの実事件を扱った映画「聖地には蜘蛛が巣を張る」で知られるイラン系デンマーク人監督、アリ・アッバシだった。アリ監督は言う。

「僕はトランプをそこまで知らなかったし、正直興味もなかった。でも脚本がとにかくおもしろかったんです」

勝利への三つのルール

 1970年代、20代のトランプ(セバスチャン・スタン)は父の不動産会社の副社長に納まる。だが仕事は家賃の取り立てなどしょっぱいものばかり。さらに父が「黒人の入居を拒んだ」と政府から訴えられ廃業の危機に。そんな中トランプは悪名高き弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)に助けを求め、ロイは彼に社会の常識をものともしない「勝利への三つのルール」をたたき込んでいく。

「単にトランプをバッシングするのではなく人間としてきちんと描き、ロイとの関係性から理解しようというスタンスが気に入っています。それに本作のトランプは次期大統領となる彼とはある種別のものと考えています。もちろん重なるところも関連性も多々あるのですが(笑)」

 トランプを演じるセバスチャン・スタンも見事で、常に髪形を気にするナルシストの半面、両親や兄との関係などナイーブな一面も浮かび上がる。

「トランプという人は至って普通の人だと思います。『世界をこうしたい』というナポレオンのようなビジョンを掲げた人物ではない。しかし社会の階層を上り詰めたいという野望と、それをどのタイミングで誰とするかに奇妙なセンスを持っている」

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