「ぼくの目標は甲子園ではありません。プロ野球選手にしてください」と、はっきり言っとったね。モヤシみたいにヒョロヒョロ(当時、身長170センチ体重55キロ)やったが、すごいことを言うなと感心した。

 しかも、中学の校長先生によると、成績はオール5に近い。その先生に「この子は県立の進学校に行けば、東大も狙える生徒なんやから、野球なんかさせんで欲しい」と言われて参ったよ。だから、イチローは成績特待生で名電に入ったんだわ。

 すぐに試合で使った。3月の終わりに入寮して練習に参加したから、わしの方が使いたくてウズウズしてね。4月2日の練習試合で、3番ライトで起用した。2打席目に、さっそくセンター前ヒット。上々のデビューだった。

 ところが、その次を失敗した。投手としても期待しとったから、5月に松商学園(長野)との練習試合で登板させたんだ。中原英孝さん(当時監督)に「うちにも、ええ子が入ったんや」と自慢したかったんだわ。星稜(石川)の山下智茂さん(当時監督)も翌年、松井秀喜が入学したとき、うちとの試合に連れてきて、自慢しとったよ。

 それで松商戦でイチローを八回から投げさせたの。そしたら、1死も取れず、4点ぐらい取られてノックアウトされちゃった。

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やめたらいいがね