他者のサポートも「自力の一部」として考えていい
第1章で「認知症とは暮らしの障害」と書きました。これをもう少していねいに言うと、生活上で必要になる「身の回りのことをする」が、具体的に、自分でどれくらいできるか、できないか、ということになります。
こうした状態を評価する国際的な尺度があって、IADL(手段的日常生活動作)というものです。図表1に日本老年医学会が示している表を載せました。
これらをチェックして、合計点数が高いほど、暮らしの障害はないと考えます。
表をご覧になって、何か感じたでしょうか。
「年をとったら、こういうことができなくなるのも仕方がないのでは?」
そのように感じる人が少なくないのではないかと思いますが、その印象は勘違いで、結果として認知症の進行を速めてしまう危険もあるので、説明しましょう。
認知症の状態になる人が多い80代には、生活上、自分でできないことが増えることが多く、本人も、周囲の人も「年だから仕方がない」と考えがちです。
しかし、先にも述べたとおり、年齢はただの数字で、80代でも一人暮らしで、自分の身の回りのことを自分で「采配」して行っている人もいます。采配というのは、全部自力で行わなくても、他者のサポートも「自力の一部」として利用している場合も含むからです。手を貸してもらえる先が多いほど、「自力」のパワーが強いと考えられます。
「年だから仕方ない」は認知症を加速させる
一方、身の回りのことが自分でできない、采配も人に委ねざるを得なくなってきた場合、これは単純に年齢のせいではありません。
年をとり、老化し、認知症の状態になったため生活に支障をきたしている。
そう考えるのが正確で、大切です。なぜなら、この認知症の初期段階を見逃してしまうと、家庭内に引きこもった生活となりやすく、できないことが増え、認知症の進行が加速してしまう危険があるからです。
「ザ・認知症」のイメージが重度認知症の状態に偏っているため、本人も、周囲の人も「年だから仕方がない」、「(イメージとは違うから)まだ認知症ではない」と考えてしまうのではないでしょうか。
しかし、認知症は暮らしの障害なので、IADLの低下が見られたら、認知症の状態になったと疑いましょう。
そして専門医療の受診や病型診断、暮らしのなかの支援・環境調整など“次の手”を早めに打つのがいいです。