認知症を進行させてしまう「環境」がある
訪問診療では「愛情」ゆえにすべてを家族に委ねて、IADLを加速度的に失っているのかもしれない、と感じる高齢の方と会うことがあります。
最初は、身の回りのことをする不自由さや、時間がかかるようになったのを見兼ねて、家族が代わりに整えるようになったのかもしれません。しかし、その愛情が自立度を低下させ、IADLや認知機能の低下をまねいてしまっている可能性を感じることがある、ということです。
家族は互いに家族のためを思っていることが伝わってきます。しかし、私が訪問診療をするようになる頃には、「できなくなったから家族が手助けした」のか、「家族が先回りで手助けしたから、できなくなった」のか、判別は難しいことが多い。
一方で、認知症の人のなかでも、俗にいう“おひとり様”で「自分でやらなければならない」環境にある人の場合、IADLや認知機能の変化は比較的ゆるやかです。
とはいえ、先回りの手助けが悪いなどというのではありません。安全性への配慮などから、それが必要な場面も往々にしてあります。
ただし、こうしたことから老化のスピードや認知症の状態に、遺伝的な影響と生活習慣病の有無などとともに、「環境」も影響することがわかる、と考えられるでしょう。
この視点が、認知症を理解するうえで、とても重要だと思っています。
「治せる認知症」があることを知っておこう
つまり、助けない(支えない)でもなく、助けすぎ(支えすぎ)でもない、「ほどよい」サポート。まさにこれからの社会全体の課題だと思い、私も考え続ける日々です。そしてこの社会の環境も、認知症フレンドリーな社会にアップデートすることが、みんなの早急の課題と思っています。
認知症の診断を受けると、その後、状態が悪化した場合に、「認知症だから仕方ない」と諦められたり、出ている「困った症状」を薬でなんとかする(鎮静する)ことだけが考えられたりするケースが現状は多いのではないかと危惧しています。
認知症を誤解していて、とても大切なことを見落としていると、そうなります。命にかかわる場合もあることなので、私はこうした現状を「早合点認知症」の残念な実例として、みなさんに知っておいていただきたいと思っています。
このようなケースは、治療ができる認知症なのに、認知症だから仕方がない、治療法はないと早合点されている状態です。みなさんが、「そういうことがある」と知識をもてば防げることですので、解説します。