昭和大学創立90周年事業の一環として、2019年5月に開館した上條記念館上條ホールにて。左から、昭和大学・小口理事長、フリーアナウンサー・宇賀なつみさん、昭和大学・久光学長

2028年に創立100周年を迎える昭和大学は医・歯・薬・保健医療の4学部からなる「医系総合大学」だ。チーム医療重視の教育と、これからの100年の展望をフリーアナウンサー・宇賀なつみさんが聞く。

創立100周年を前に、校名を変更

宇賀:昭和大学の歴史は1928年に始まります。創立者である上條秀介博士は、どのようなお考えを持って大学を創設されたのでしょうか。

理事長:上條博士は、学問・研究を偏重する当時の医学教育体制と社会情勢との矛盾を感じ、また、1923年に起きた関東大震災で日本の医療の脆弱さに気づきました。真に必要なのは、いたずらに知識に偏ることなく現場で医療を実践できる臨床医、患者さんの声に親身に耳を傾け、国民の健康に貢献できる優れた医療人であると考え、大学の設立を決意されたのです。そのとき上條博士は32歳。5年後に本校の前身である昭和医学専門学校を設立しました。

宇賀:強い信念と情熱をもって創立に取り組まれたのですね。

理事長:建学の精神である「至誠一貫」の四文字には、患者さんや困っている人にまごころをもって誠心誠意つくす医療人の育成という、上條博士の志が込められています。

宇賀:2025年4月1日に校名を昭和医科大学に変更されるとうかがいました。今、大きなご決断をされたのは何故でしょうか。

理事長:これまでの100年で、本学は医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部の4学部からなる医系総合大学へと発展しました。しかし、現在の校名では医系総合大学のイメージにつながりにくいため、「医」の文字を入れ、専門性をしっかり打ち出そうと考えたのです。校名変更に伴い、さらなる発展を目指して準備を進めています。

昭和大学 理事長 小口 勝司(おぐち・かつじ)/医学博士。1975年昭和大学医学部卒業。79年同大学院修了。87年同大医学部第二薬理学教室助教授となり、第一薬理学教室教授、学生部長等を経て、2001年理事長就任。15年藍綬褒章受章。16年同大名誉教授

宇賀:具体的な取り組みをお聞かせくださいますか。

学長:医療は医師だけで完結するものではなくチーム医療が重要です。2027年4月に、保健医療学部リハビリテーション学科に言語聴覚療法学専攻と視覚機能療法学専攻を新たに開設するほか、同学部に医療技術学科を新設し、診療放射線技術学専攻、臨床工学専攻、歯科衛生学専攻を開設する予定(設置構想中)です。実現すれば4学部6学科となり、育成する医療人の幅がさらに広がります。

1年次全寮制で、相互理解の大切さを学ぶ

宇賀:昭和大学には「1年次全寮教育制度」がありますね。1965年から続く伝統ある制度とうかがって驚きました。

理事長:学部の違う4人が同じ部屋で1年間、寝食を共にします。異なる考えをもつ相手とも、コミュニケーションを深めることで理解し合えるということを学び、さまざまな問題を仲間と協議して解決する力を養うのです。人のためにつくすのが医療ですから、人の気持ちがわかるようにならなければなりません。

学長:学生が夏休みに帰省したとき、家族は成長を実感するようです。学生には2年次に上がったとき、卒業時、卒業後にアンケート調査を行いますが、いずれも「寮生活は有意義だった」という回答が多くを占めます。卒業生からは「医療チームづくりに役立った」などの回答があり、良い影響を及ぼしていることがわかります。

昭和大学 学長 久光 正(ひさみつ・ただし)/医学博士。1977年昭和大学医学部卒業。81年同大学院修了。89年同大医学部第一生理学講座助教授となり、同大教授、医学部長、富士吉田教育部長、医学部附属看護専門学校長等を経て、2019年学長就任。同年同大名誉教授

宇賀:お二人も寮生活をご経験なさっていますよね。どんなことが印象に残っていますか。

理事長:楽しい思い出ばかりです。同学年全員と一生の友達になり、今集まると「富士吉田は第2の故郷」と皆が口を揃えます。20年、30年と時間が経てば経つほど寮生活の評価は上がるのです。

学長:夜遅くまでよく話しました。喧嘩をしたり悩みを打ち明け合ったりしながら互いに成長することができたと感じています。

宇賀:なんだか羨ましいですね。

理事長:オープンキャンパスでも、寮生活に魅力を感じてくれる高校生は多いようです。

大自然に囲まれた富士吉田から昭和大学のキャンパスライフはスタート

チーム医療の意識を、学生時代から育む

宇賀:特色ある取り組みはほかにもありますか。

理事長:1年次から、各職種の立場で患者さんが抱える課題を解決に導く本格的なチーム医療プログラムを実施しています。チーム医療では職種による上下関係はなく、お互いの理解を深めることが大切です。そのような基本がチーム医療プログラムで身につくと、自然によいチーム医療ができるようになります。

学長:クリニカルクラークシップ(診療参加型臨床実習)を主体とした臨床実習制度では、実際の医療現場に出てチーム医療を学びます。診療に参加することで生きた知識が身につき、命の尊さや患者さんの思いを体感することもできます。

理事長:本学は8つの臨床実習病院を有し、現役の医療従事者が全学部の「臨床教員」として実習を指導しています。臨床教員は本学独自の制度で、修士以上の学位を持ち複数の選考基準を満たした教育者です。合計2000人を超す臨床教員が一貫的な指導を行っています。

宇賀:手厚い教育体制で学生は心強いですね。

学長:基礎医学から臨床医学への一貫した教育を展開し、国家試験間際には不得意な分野を克服するための対策講座なども行っています。また、独自の「指導担任制度」で、一人の教員が数人の学生を担当して学習面、生活面できめ細かく支援できる体制を整えています。

フリーアナウンサー 宇賀 なつみ(うが・なつみ)/2009年立教大学社会学部を卒業し、テレビ朝日入社。入社当日に「報道ステーション」気象キャスターとしてデビューする。2019年に同局を退社しフリーランスとなる

宇賀:最後に、これから先の100年で目指されていることをお聞かせください。

理事長:100年前、何もなかったところから本学の歴史は始まりました。それと同じように全く新しいことに挑戦し、中興の祖である上條一也先生が夢見た〝日本一の医系総合大学〟をつくりあげていきたいと考えています。

学長:健康であること、病気を治療して健康に近づけることは、人が幸せになる上で重要なことです。そのお手伝いをする医療人の育成のために、よりよい教育環境を整えていきたいと思います。

理事長:これからも先端的な教育に取り組んでいきます。

宇賀:ありがとうございました。

昭和大学の歴史
医学専門学校から医系総合大学へ

 創立者上條秀介博士は1925年に医学専門学校設立の必要を提唱。のちに外科学講座初代教授、病院長、学長を歴任する石井吉五郎博士らと同志を募り、創立委員会を立ち上げた。28年、校歌に旗ヶ岡と謳われる東京府荏原郡荏原町に昭和医学専門学校を開校。教育活動の理念を「至誠一貫」と定めた上條博士は、学生の可能性を引き伸ばす教育を自ら実践した。

 戦中・終戦直後の苦難の時代を経て46年に「昭和医科大学」となり、64年「昭和大学」に校名変更。薬学部と医学部附属高等看護学校を設置し、医系総合大学に向けての礎が固められていった。

 65年、富士吉田校舎が竣工すると、まず男子学生のみ1年次全寮教育制が始まり、2年後には女子寮もつくられて1年次男女全員の全寮制教育が完成。チーム医療に必要な人間性を養う教育として現在まで受け継がれることとなる。

開学以来受け継がれてきた「至誠一貫」の精神

昭和大学の歴史
学部の充実でさらなる飛躍を

 77年に歯学部、2002年に保健医療学部が開設。昭和大学は、黎明期(1928年〜)、成長・発展期(65年〜)、充実期(90年〜)を経て、医・歯・薬・保健医療の4学部が揃う日本で唯一(当時)の医系総合大学として2008年に創立80周年を迎えた。

 2019年には上條記念館が完成。創立90周年事業の一環で建設され、昭和大学の新たなシンボルに。

 そして2025年4月1日、昭和大学は「昭和医科大学」となり、新たなステージが始まる。

教育・研究の中核的役割を担う旗の台キャンパス

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2025年4月、昭和大学は昭和医科大学へ

 昭和大学が校名変更を発表したのは2024年4月15日。「医学部以外に歯学部、薬学部、保健医療学部も擁する医系総合大学であることを社会に直接的に表明する必要がある」と理由を説明した。校名を変えるだけではなく、2027年4月に言語聴覚士、視能訓練士、診療放射線技師、臨床工学技士、歯科衛生士の養成課程を開設し、さらなる充実を図る。

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2028年、昭和大学は創立100周年を迎えます

 昭和大学は2028年11月15日に創立100周年を迎える。記念事業として旗の台キャンパス整備事業、鷺沼キャンパス整備事業、藤が丘病院再整備事業、富士吉田キャンパス整備事業、歯科病院旗の台移転事業、保健医療学部新学科等設置・再編事業、横浜キャンパス看護専門学校設置事業が進行中。旗の台キャンパス整備事業では新病院の建設が検討されている。

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保健医療学部に新学科等設置・再編事業

 2027年4月1日、保健医療学部リハビリテーション学科に、新たに言語聴覚療法学専攻と視覚機能療法学専攻の2専攻を加え、併せて医療技術学科を新設し、診療放射線技術学専攻、臨床工学専攻、歯科衛生学専攻の3専攻の開設を計画している。

創立100周年記念事業
学生約2000人が学ぶ鷺沼(さぎぬま)キャンパス整備事業
より充実したキャンパスライフを実現し、医系総合大学としての使命を全うする

 昭和大学は創立100周年事業の一環として、約1万坪の鷺沼校地(神奈川県川崎市)に「鷺沼キャンパス」の開設を計画。開設は2027年4月を予定しており、医、歯、薬学部の2、3年次と4年次の一部、保健医療学部の2〜4年次、助産学専攻科の学生約2000人が集う学舎が誕生する。

 小口勝司理事長は、「富士吉田キャンパスで1年次を共に過ごしたあと、鷺沼キャンパスでも4学部一緒に学ぶことにより、チーム医療が〝習慣〟として身につく」と、本計画の意義を語る。

 チーム医療の質向上のために必要な相互の理解と信頼、学部や職種を超えた仲間意識を醸成するために、鷺沼キャンパスの建物は学部別ではなく学年別になるという。

 鷺沼は臨床実習病院である昭和大学病院、昭和大学横浜市北部病院、昭和大学藤が丘病院へのアクセスがよく、これも学生にとっては大きなメリットだ。

 また、研究分野のセンター化を推進する。同大は19年に「昭和大学統括研究推進センター(Showa University Research Administration Center:SURAC(スーラック)」を発足させ、研究の支援や研究者の交流促進を図ってきた。11ある附属研究所の総合的な支援体制を強化することで、研究力のさらなる向上を目指す。

みどり豊かなキャンパスのイメージ

創立100周年に向けた7つの記念事業

1. 旗の台キャンパス整備事業
2. 鷺沼キャンパス整備事業
3. 藤が丘病院再整備事業
4. 富士吉田キャンパス整備事業
5. 歯科病院旗の台移転事業
6. 保健医療学部 新学科等設置・再編事業
7. 横浜キャンパス看護専門学校設置事業

創立100周年記念事業
藤が丘病院再整備で新たなまちづくり

 2018年10月、昭和大学は横浜市、東急株式会社と「駅前施設・病院・公園」が一体となった新たなまちづくりに取り組むため、まちづくり推進に関する協定を締結した。24年6月には「藤が丘駅前地区再整備基本計画」を策定、公表。本計画を通じて新たなまちづくりに取り組むとともに、藤が丘病院の機能を更新し、地域への貢献度を高めることを目指す。

 開院から50年近く、横浜北部地域の中核病院として医療を提供してきた藤が丘病院。高度急性期医療への対応や災害拠点病院としての役割を今後も担い、地域の人々に安心の医療を届けることを理念に、本計画で定められているまちづくりの方針を実現し具現化するための都市計画を推進していく。

東急田園都市線藤が丘駅駅前施設、病院、公園が一体化した空間に

昭和大学附属病院
昭和大学が誇る9つの診療機関

左から、昭和大学病院、昭和大学病院附属東病院、昭和大学藤が丘病院、昭和大学藤が丘リハビリテーション病院
左から、昭和大学横浜市北部病院、昭和大学江東豊洲病院、昭和大学豊洲クリニック予防医学センター、昭和大学附属烏山病院、昭和大学歯科病院

※昭和大学は、2025年4月1日、昭和医科大学に校名を変更します。