注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年1月27日号より。
【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん
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藤井聡太王将に永瀬拓矢九段が挑戦する第74期ALSOK杯王将戦七番勝負が開幕した。第1局は1月12・13日、静岡県・掛川城でおこなわれ、112手で藤井が勝利。防衛4連覇、七冠堅持に向けて、幸先のよい1勝をあげた。
藤井「序盤の細かなところに少し課題が残ったかなというふうには感じています」「また次に向けて、しっかり準備をしていきたいと思います」
振り駒で先手となった永瀬は相掛かりの戦型を選択。機敏に右端から動き、観戦者の目には、永瀬が序中盤でペースをつかんだかに見えた。
藤井「自信がない展開かなと思っていました」
永瀬「全体的に判断が難しいと思いながら指していました」
藤井の辛抱は、いつもながらに見事だった。どんな時代でも将棋界の王者は容易に土俵を割ることがない。そして盤上では、はたらいていない駒の活用が驚くほどに上手い。守勢の藤井はそっぽの右端に追いやられた金を、じっと中央に寄せていく。終盤ではその金が盤上の要所を占め、光り輝く存在となった。永瀬の側にさしたる悪手もないまま、いつしか形勢は藤井勝勢に。最後は藤井がギリギリの終盤を競り勝った。
恒例の勝者撮影。藤井はへび使いの格好をリクエストされ、笑顔で応じていた。
藤井は1月8日におこなわれた叡王戦本戦トーナメントでは増田康宏八段に勝利。ベスト8に進み、伊藤匠叡王への挑戦権獲得まであと3勝とした。
藤井「まだ挑戦を意識するような段階じゃないかなとは思っているので」
藤井自身はそう語る。一方で周囲は、その成績を意識せずにはいられない。藤井は保持するタイトルを防衛しながら伊藤から叡王を奪い返せば、再びの八冠独占達成となる。2025年もまた、藤井の動向から目が離せない。(ライター・松本博文)
※AERA 2025年1月27日号