石破首相に対する中国側の「好意」

 日本のメディアは、中国経済が不振で、日本企業の投資を呼び込みたいからだとか、日米韓の中国包囲網に楔を打ち込む狙いだとか、トランプ氏の大統領就任後の米中対立激化による経済への打撃が予想されるので、少しでも日本を中国に引き付けておきたいという思惑だなどという解説をしている。ネットなどでは、「中国の罠に騙されるな」という論調さえ見られた。

 いずれもネガティブな色彩が強く、もちろん、石破首相のお手柄だなどという論調は皆無だった。

 日本のマスコミが報じたような効果を中国が狙ったというのは間違いではないだろう。しかし、中国は、メンツを重んじる国だ。日本に対して何かを差し出すなら、日本側も何かを出してもらわないとメンツが立たない。

 ところが、中国側は、他にも日本に譲歩する姿勢を見せた。

 福島第一原発の汚染水(処理はされているが汚染は残っているのであえて汚染水と呼ぶ)問題で中国側がとっている日本の水産物の全面的輸入停止措置について、昨年9月には、中国外交部(外務省)が「科学的証拠に基づき、関連措置の調整を行い、徐々に基準に適合した日本の水産物の輸入を再開する」という声明を出していたが、いつからどれくらいの解禁措置をとるのかについては全くわからず、これを外交のカードとして利用するのだろうと見られていた。日本が何か譲歩しなければ、結局空振りになる恐れもあるのではと懸念された。

 これについて、石破首相との会談で習主席は、中国が段階的な輸入再開に向けて対応を進めていくことを自ら確認した。これで、この合意が実施されることは確実になったと理解して良い。

 他にもある。

 中国軍機が昨年8月に日本の領空を侵犯して大問題になり、日本側が厳重に抗議していたのを覚えているだろうか。これについて、石破・習首脳会談直後に、中国側から「気流の妨害に遭い、……不可抗力により日本の領空に短時間入った。あくまで技術的な問題で、領空に『進入』する意図はなかった」という話があり、再発防止に努めるとの説明があった、と日本の外務省・防衛省が突然発表した。首脳会談後に習主席から、そのような対応をすることの了解が出たということだろう。謝罪こそなかったが、中国側が一方的に過ちを認め、再発防止に努めるという異例の対応である。

 やはり、石破首相に対する好意の印と取るべきだろう。

 これらの「好意」に対して、日本側が返したのは、中国の団体観光客向けのビザを最長15日から30日に延長し、さらに富裕層の個人観光客向けに10年間で何度も渡航できるビザを新設するなどの措置の発表だ。中国側の一連の「好意」に比べていかにも小粒であり、中国側から見れば「不十分」である。

 そこで、表には見えないが、石破首相が習主席により踏み込んだ日本側の「好意」を示したか、あるいは、それを中国側が読み取ったのではないかという見方が出てくる。

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中国側の「メンツ」を保ちながらの外交