中国外交関係者は「石破首相は信頼できる」

 いずれにしても、中国側としては、国民の反発を恐れつつも、ギリギリのところで、対日関係改善に取り組んでいるということだ。

 ちなみに、岩屋外相は、「日中共同宣言で始まる、これまでの日中間の4文書、これを石破政権も引き継いでいる」と説明したとも述べているが、これは、前述の台湾問題について、やはり、日本が独立を支持することはないということを保証したと見ることができる。

 これらの日本側の姿勢が、最重要問題で日本側に「ハシゴを外されることはない」という中国側の評価を生んで、一連の宥和的措置に繋がったと考えると合点がいくのではないだろうか。

 こう考えると、中国側の一連の措置は、単に中国側の苦しい事情から出たものではなく、石破政権の絶妙の駆け引きの成果だという理解もできる。

 これまでに何回か私が中国外交関係者から聞いた話がある。それは、「石破首相は信頼できる」ということだ。「石破氏は人格的にリスペクトできる。最近の日本の首相たちに比べて誠実で嘘をつかない」と期待しているのだ。

 これは、安倍、菅、岸田と3代続けて、「日本と話す意味はない。米国と話せば良い」と思わせる首相が続いたのに対し、石破氏は「話す価値のある首相だ」と習主席に思わせたと言い換えても良い。

 だとすれば、これは石破首相の放ったクリーンヒットだ。

 日中関係改善にはトップ同士の信頼関係が必須条件だ。

 もちろん、すぐに薔薇色の日中関係を望むのは難しいとしても、いつ何が起きるかわからないというこれまでの非常に不安定な関係から、少なくとも対話を通じて相互理解を図れる関係に移行する可能性は開けたと見て良いだろう。

 日本の国民の多くが大嫌いな中国と仲良くしてどうするという批判もあるだろう。トランプ新大統領が厳しく接するであろう中国と仲良くすれば逆にトランプ氏の逆鱗に触れるという論調も見られる。

 しかし、日中関係が安定すれば、日米関係でもあるいは韓国やロシアや北朝鮮との関係でも、日本にとっては選択の幅が大きく広がる。

 中でも、私が最も期待するのは、日本が、対米隷属の自立性を欠いた外交から脱却し、真の独立国としての外交を取り戻すという大事業を成し遂げるための前提ができるということだ。

 それを可能にするためには、石破首相には、自民党保守派などの反発を恐れず、日中関係改善を進める胆力が求められる。

 トランプ次期大統領に一日も早く会うべきだというような愚かな論調も目にするが、私は全くそうは思わない。理不尽な政策を乱発するであろうトランプ新大統領の登場は、実は、日本の真の自立した外交を取り戻すためのチャンスである。それについては次回以降に詳しく書いてみたい。

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