「台湾問題」と「歴史認識」でも安心感
一つは台湾問題だ。
日本側では、麻生太郎自民党副総裁などが、いかにも台湾独立を唆し、一緒に中国と戦おうという呼びかけともとられる発言をしている。石破氏も、昨年の自民党総裁選挙前に台湾を訪問して頼清徳総統と会談し台湾支援と見える姿勢を見せた。中国は、強く懸念していたはずだ。
前述の石破・李会談では、中国側は、日本は台湾問題に関して≪日中共同声明≫で確定した立場を堅持しており、それを変更することはないと明言したと発表した。これは当たり前のことなのだが、中国側から見ると、非常に重要なことだ。なぜなら、これは、(解釈にはいくつかの論点があるが)最低限、日本が台湾の独立(中国政府は今これを最も恐れている)を支持しないという意味を持つからだ。
習主席は石破首相に直接この話を問いただしたのかどうかは不明だが、仮にそうであれば、それに対して、石破首相が、その立場に変更はないと明言したか、あるいは少なくとも中国側がそう理解できる言葉を述べたと考えると、中国側の好意的な対応が続いていることの説明がつく。
もう一つは歴史認識についてだ。
岩屋毅外相が昨年12月25日に中国の王毅外相との会談で「歴史問題では『村山談話』の明確な立場を引き続き堅持し、深い反省と心からの謝罪を表明する」と発言したとする中国外交部の発表について、岩屋外相自身が「不正確である」と発表し中国側に申し入れたというできごとがあった。この発表で注目すべきなのは、日本側が発言自体を否定せず「不正確」だとしたことだ。「石破内閣は、1995年の村山談話、そして、2015年の安倍談話を含む、これまでの内閣総理大臣談話を引き継いでいる」と言っただけというのだが、村山談話を含んでいる以上、その中にあった「深い反省と心からの謝罪」ということを述べても何ら問題はない。しかし、安倍政権以来、岸田内閣も、抽象的にこれらの談話を引き継いでいるというだけで、自分の言葉で反省と謝罪を口に出すことを頑なに拒否してきた。それが中国国民の、「日本は本当は反省していないし、謝罪の気持ちも持っていない」という批判を呼んできたのだ。
中国政府としては、日本に対して一方的に「好意」を示すことについて大きな不安がある。
それは、中国国民が強く反発するのではないかということだ。それを緩和するためには、石破首相は最近の日本の首相とは違い、真摯に反省と謝罪の気持ちを表していると中国は国民に伝えたい。そのために、前述のような発表になったと思われる。
実際のやり取りとしては、「日本が謝罪と反省という言葉も引き継いでいると理解する」という王外相の発言に対して岩屋外相がこれを否定しなかったというようなものだったかもしれない。岩屋氏も、「事実に反する」ではなく、「不正確」だと発言し、中国側のメンツは保たれた。