米テスラは利益率でトヨタの5倍。中国のBYDも利益が出にくい小型車EV中心でもトヨタ並みの利益率だ。BYDは高級車市場にも参入予定で、利益率はさらに上がる。トヨタの切り札、資金力も色あせてくる。
トヨタはまず高級車レクサスのEVで何とか儲けを出す戦略だが、米国高級車市場では、既にテスラが52万台でレクサスの29万台の倍以上だ。それを追うベンツやBMWも既にEV販売を本格化している。25年からEV販売を本格化させるレクサスには厳しい状況だ。
最後に、トヨタの「環境にやさしい先進企業」というブランドが欧米で崩壊したことも致命的だ。「うるさくてガソリン臭いクルマがいい」という豊田章男会長の迷言もあり、欧米では時代に取り残された企業というイメージが漂うトヨタのEVに期待する者はいない。
トヨタの新戦略発表後、株価は全く反応しなかった。それこそが正直な市場の評価である。
ガソリン車、ハイブリッド、EV、水素自動車などすべてを選択肢として残す「全方位戦略」を掲げた豊田章男会長への忖度で、今もこれを捨てられないトヨタ。
日本の屋台骨の自動車産業の盟主トヨタがEVで敗戦すれば日本は終わる。「全方位」からの脱却を今こそ決断する時だ。
古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。自身が企画プロデューサーを務めた映画『妖怪の孫』の原案『分断と凋落の日本』(講談社)が発売中
※週刊朝日 2023年4月28日号