そんな私がよく考える行為のうちで、もっとも悪口がはずむのはやはり「別れない男/女」だったりするわけです。別れたい人と別れたくない人のどちらが間違っているわけではないとはいえ、一対一のマッチングを基本とした多くの恋愛や結婚では、両方の気持ちが通じ合って初めて関係が成立するという前提があるからです。たとえ身勝手であっても片方が気持ちの通じ合いから降りてしまうと、その関係はすでに破綻しています。その破綻した関係を、法制度や口約束を盾にして継続しようとする行為は、お菓子も玩具もすべて空き箱なのに店を開業し続けるようなもので、とても虚しく、また相手の未来を制限したり世界を狭めたりするという意味では迷惑でもあります。

「愛しいろくでなし」を手放す痛み

 いただいたお便りからでは相手の方がどんな理由で、どれくらい真面目に、別れてそれぞれの道を歩きたいと考えているかはわかりません。わかるのは、相手の男性が他人にはおすすめできないという意味で、悪いところやダメなところがあるけれども、付き合って結婚した本人としてはとても愛しいろくでなしだったのだろうなということくらいです。

 自分だけの愛しいろくでなしを手放すのは、自分の身体を引き裂かれるような痛みがあるかもしれません。でも、今は世界で彼だけに見えるそんな愛しいろくでなしは、土曜の夜に六本木でも下北沢でも歌舞伎町でも、好みの街に出かけさえすればきっとまた巡り合える人々だと思うのです。破綻した関係を掴(つか)み続けるよりも、その手を離して相手を解放し、ついでに自分も解放されて、新しいろくでなし探しの旅に出たほうが、双方の人生にとって豊かな結果になる気がします。

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