「期待」のしすぎがあなたを苦しめている。そう指摘するのは、2万人以上のリーダーを対象にコーチングやリーダーシップの指導を行ってきた林健太郎さんである。だが、同時に「期待をしない」で生きることは不可能であるとも語る。相手に過度な期待をせず、期待にがんじがらめにされた社会を楽に生きるコツを、著書『人間関係の悩みがなくなる 期待しない習慣』(朝日新聞出版)から一部を抜粋・再編集して解説する。
人は「期待」してしまう生き物
あなたは日頃、思い通りに動かない人や自分の考えとは全く違うことをする人に、イライラ、モヤモヤしていませんか?
それ、すべて期待のしすぎが原因だったんです。
ビジネスリーダーの能力開発を専門とする私の元には、毎日たくさんの課長・部長などのリーダーが相談にやってきます。その相談の中で最も多く扱われる話題は、自分に対する評価の結果に関することです。そして、リーダーたちはこんなセリフを口にします。
「もう少し、評価してもらえると思ったのに……」
自分としては精一杯やっている仕事に対して、もう少し好意的な評価や、応援する姿勢があってもいいのに、といった「期待」は多くのリーダーが誰にも言えず密かに感じている「心の声」だったりします。
そして、リーダーだけではなく、社会生活を送る私たちは、先に挙げた人事考課のようなわかりやすい期待のほかにも、こんな期待をしながら毎日を生きています。
「あの人はちゃんとやってくれると思ったのに」
「予定通りに進むと思ったのに」
「この店なら売っていると思ったのに」
こんな言葉を聞いて、皆さんにも思い浮かぶ「期待」はありませんか?
つい先日、わが家でもこんなことがありました。妻と久しぶりに外出したときのこと。「帰ったら一緒に食べよう」と、以前から気になっていた老舗の和菓子屋さんで水ようかんを購入しました。しかし、思いのほか帰りが遅くったので、「もうすぐ夕食だから、夜、子どもたちが寝てから食べよう」ということになったのです。
さて、その夜。水ようかんを楽しみにしていた私が、「子どもたちも寝たから、そろそろ食べようか」と告げると、妻から衝撃のひと言が……。
「あっ、もう、歯を磨いちゃった」
そこには「せっかく一緒にホッとできる時間を過ごそうと思ったのに……」となんとも言えないがっかりした気持ちになっている自分がいました。
こうやって文字にしてあらためて書き起こしてみると、とても些細なことで、読者の皆さんからすればきっとどうでもいい日常のことだと思うのですが、私としては強く記憶に残る瞬間でした。
皆さんにも、そんな期待のすれ違いの経験があるのではないでしょうか。
人は誰でも毎日、小さな期待を積み上げて生きている。そして、多くの場合、その期待を「裏切られる」ことを繰り返しながら生きていると言えるのかもしれません。