久しぶりに「地獄坂」を上ったら息が切れ神戸を出てからの年月の長さを確認した(撮影/狩野喜彦)
久しぶりに「地獄坂」を上ったら息が切れ神戸を出てからの年月の長さを確認した(撮影/狩野喜彦)

「いま持っているものを100として言えば、生まれ育ったこの地で形成されたものが90はある。物の考え方とか価値観はその後に付け加えられたものでしょうが、いまの言葉や行動は、常にこの『源流』からつながっています」

■コロッケ食べた思い出詰まる母と来た商店街

 神戸市灘区にある水道筋は、大正時代に西宮市の貯水池から水道を引く際に管が通り、その上にできた道だ。次第に店が増えて500店を超え、東京の武蔵小山や大阪の天神橋筋と並び称される商店街になった。立ち寄って、思い出す。

「ここは、おふくろが買い物へ行くとき、毎日のように一緒にきました。中学校時代は部活の後に寄って、揚げ立てのコロッケを食べました」

 縦横に枝分かれした道をたどり、懐かしそうに店をのぞく。昔からある菓子屋や珈琲店をみつけて、頷いた。昼食をとり、冒頭の県立神戸高校へ向かう。

 最後に神戸港へいった。日が暮れかかった海をみながら、一日を振り返る。

「今日、巡ったところは、いずれも人生の原点。自分のいまの在り様や考え方、価値観のすべてが形成されてきたのが、たどった場所だった。その場所と家族と仲間、地域の人々などの関係性のなかで、自分ができ上がってきたのだなということを、改めて感じました」

 神戸は早くから港を開いて外国人を受け入れ、そこからいろいろと学び、吸収し、一つの文化を創り上げてきた。では、これからはと言えば、その文化もすでに古くなっている。何をどう守り、何をどう新しいものに変えていくか。

「経営も古きよきものをどう守り、新しくいいものをどう創っていくかの判断の連続だ。そこで得た経験を活かせるなら、神戸に貢献していきたい」

 そう言って、再訪を終えた。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年4月17日号

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