●「先輩の体験談を共有する」ことで強くなる

 競泳メダリストが語った、チームワーク向上の具体的な話は、次のような内容だ。

・オリンピックの選考レースが終わると、代表選手は味の素トレセンやJISSに集められ、アイスブレイクゲームやチームビルディングゲーム(マシュマロチャレンジなど)を行った後、ミーティングを選手主体で開いて、いろんなことを話し合う。

・オリンピックの体験談を、質問形式なども取り入れて話す。話す側の選手も改めて確認できることも多く、また初出場選手は、体験談を聞くことで、“初めてのオリンピックだったので、わけもわからず終わってしまった“ということが少なくなる。中には、体験談を何人もから聞いたことで“初めての気がしなかった”と、経験者並みの落ち着きをもってレースに臨めた選手もいた。

・レースへの決意表明を、レースの順に全員が行う。スタッフも入る。

・選手、スタッフらで円陣を組み、真ん中に一人選手が入って、みんなで声を出し合う“ワンパ”と呼ばれる競泳特有のウォークライを行う。

・選手村などでは、毎日みんなで会えないので、共有スペースにホワイトボードを置き、みんなでメッセージを書きあう。

・選手の泳いでいる動画をみんなで見て、先輩後輩関係なく、アドバイスを言い合う。
 
 これ以外のことも、前述の単行本、ネットでの水泳に詳しいライターや選手のインタビューなどで、読むことができる。

「先輩が経験談を話す」というのは、もっとも簡単に、すぐ実行できるように見えるが、ふだんの所属チームが異なっていたり、選手同士に強いライバル心があると、利害関係から、なかなか相手の得になる話はできないものだ。だが、あえて共有する。さらけ出したうえで、互いがもっと強くなる。日本の中で隠したり、非協力的になっていては、世界で戦う大きな力は育たない。競泳では、質問形式で聞きたいことを、聞きたい選手に話してもらうという。

 ある競技では金メダリストを集め、代表候補選手限定で「メディアには言えなかった、本当の舞台裏」を赤裸々に語らせたこともある。経験はその競技にとって、財産であり、脈々と受け継がれる伝統になっていくものなのだ。

 チームジャパンの観点から、異競技のメダリストに、体験談を話してもらうという研修も増えている。リオデジャネイロオリンピックに向けての、今年4月の競泳の代表合宿には、陸上の室伏広治さんが講師として招かれている。

 リオデジャネイロオリンピックで発揮される、日本の個人競技の「チームワーク」に注目したい。また「チームジャパン」として、すばらしいパフォーマンスが実現できるよう応援したい。