心身共に健康的で自由
タンピンな毎日は最高


 陳さんは仕事をやめた当初、ほぼ毎日、日常の様子や家計簿の金額などを動画投稿していた。それによると、出費の多い日は1000元(約2万円)ぐらい使うが、まったくお金を使わない日もあり、出費は月平均6000元(約12万円)前後。この感じでいけば70歳までは余裕でやっていけるし、二人とも年金保険を十数年以上納めているので、定年の年齢になったら年金ももらえる、ということだ。

「タンピンしたら、心身ともに完全に自由になった」と陳さんは話す。朝、目覚まし時計で起こされることもなく、顧客や上司からの連絡を見逃して怒られるのを恐れることもなくなった。仕事に行かないから同僚との付き合いも不要になり、無駄な出費や洋服、化粧品などの買い物も減った。デリバリーフードとさよならし、健康的な食事づくりに励む毎日。「健康な生活を手に入れた今は、物質的にそんなに豊かではないが、精神的にはとても充実し、幸せを感じる。毎日、今この瞬間を楽しみ、自分の時間を自由に使える生活は最高だ」と動画で語った。

夫婦の決断と生き方に対しては賛否両論の声が上がり、SNSを賑わせた。

「うらやましい!1カ月のインカムゲインが1万元もあったら、それは普通の人の1カ月の給料よりも多い。夢のようだ……」

「賛同する!将来どうなるか分からない世の中。自分の気持ちのまま生きる、今が良ければそれでいいのではないか」

「今のような世の中、将来、子どもに健全な教育環境や公平、公正な社会を提供できなければ、子どもがどんな努力してもだめなので、そういう意味では子どもを作らないほうが賢明だ」

「300万元どころか、100万元(2000万円)でもお金があるなら、働きたくない。問題は普通の人が一生働いても、この金額の貯蓄ができないこと。それが現実だ」

「30代でもう働かない」ことへの批判、
社会への不安の声も


 30代で仕事を辞め、貯金で暮らす。日本や米国の「FIRE」に似ているが、二人の生き方に対して否定的な意見も少なくない。

「30代でこれからの人生がまだまだ長いのに、もう働かないなんて。将来に対して不安がないのか?本当にやっていけるのか?」

「インフレが進んだり、金利が下がったりすれば、貯金は減る一方だ。また、社会保障が完備されていない中で、もし大きな病気を患った場合、これぐらいの貯蓄ではとても足りない」

 二人に対する賛否ではないが、社会に対しての不安や悲観的なコメントもある。

「一体どれぐらいの貯蓄があったら、何もしなくても安心して老後を暮らせるのだろうか?」

「そもそも我々が一生働いて節約しても、300万元なんてとても貯めることはできない」

 この夫婦の話題が、なぜこんなに盛り上がり、関心を引くのか。それはおそらく、今の中国が抱えているさまざまな経済や社会問題が反映されているからではないかと思う。

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