明るいまなざしが印象的な清野優里さん(撮影/写真映像部・和仁貢介)

「好き」「やってみたい」

 大きな瞳を輝かせ、人なつっこい笑みを浮かべるモデルの清野優里さん(31)。染色体異常のひとつで小児慢性特定疾病に指定されている4pマイナス症候群がある。視力が弱い、成長障がいがある、精神や言語の発達が遅れるといった特徴があり、5万人に一人といわれる障がいだ。

 以前の優里さんは「暑さや寒さに弱く、体調管理のために家から出ないことも多かった」と母親は話す。高木さんのウォーキングレッスンを受けるようになって数年間が経ち、体幹が強化されて歩き方や歩幅が広くなり、長い時間歩けるようになった。

 モデルを始めたきっかけは、本人が興味を示したことだった。自分から言葉を発することはなくても、「好き」「やってみたい」と母親に意思を伝えてきた。撮影の場でも、楽しそうにいきいきとしている。外出が増え、体が丈夫になった。

 もとから「明るく、緊張しない」(母親)という優里さんの強みが、舞台の演技でも発揮された。24年5月に日本舞踊家の月妃女さんが主宰する演劇『台湾に命を捧げた八田與一の半生』に子ども役の一人として出演し、物怖じせずに喜びや悲しみを豊かな情感で表現した。

 今後はミュージカルに挑戦するため、歌のレッスンにも励んでいる。

清野優里さん(撮影/写真映像部・和仁貢介)

ありのままの姿で舞台に

 障がいがある人がモデルとして活動する機会は広がりつつある。

「時代とともに、より多様性、個性が認められるようになっている」と、高木さんは説明する。モデルはファッションや商品のよさをアピールする役割で、人としての個性を前面に出すことが求められているわけではない。しかし、時代とともにモデル像は多様化している。

「私がモデルをしていた1980年代は歩き方の美しさが求められ、マネキンのような立ち位置で、笑うことさえ許されなかった。90年代から笑ってもよくなり、今は歯に矯正器具がついていてもいい、ありのままの姿で舞台に立てるようになった」(高木さん)

 欧米では障がい者やトランスジェンダーなど性的マイノリティーのモデルもプロとして活躍している。日本ではまだ「障がい者としての枠組み」での起用はあっても、健常者と同じ立ち位置でモデルをめざすのは難しい状況だ。

「障がい者を採用してお金もうけをしているのかと批判が来たこともある。福祉の役割は大切だけれど、障がい者は『何かをしてあげる』だけの対象ではない。モデルをしたい人がいるならば、仕事として収入を得られる環境にしたい」(高木さん)

(ライター・斉藤真紀子)

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