母親がマルチ企業に“洗脳”されてしまった真紀さん(仮名)※以下、写真はすべて真紀さん提供
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 AERA dot.は今年8月、マルチ商法にのめりこむ親のもとで育ち、生きづらさを抱えるようになった人たちを追う連載「マルチ2世~“商業カルト”で家庭崩壊~」を掲載した。連載ではマルチ商法に関わったことで多額の金銭や人間関係を失ってしまった当事者に焦点を当てたが、商品を“売る側”はどのような手法で近づいてくるのか。マルチ企業の勧誘や洗脳の手口について、元社員に取材した。

【写真】「奇跡はドンドン起こって来る」マルチ企業の勧誘の様子

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「入社の動機は『世の中から病を少なく』という会社の理念に共感したからです。親しい人をガンで亡くしたこともあり、自分も役に立ちたいと思って」

 こう話すのは、マルチ商法によって健康商材を販売していたA社の元社員・関口誠さん(仮名)だ。数年前、A社に入社した当時はマルチ商法の仕組みやその悪質性についてよく知らなかったという。

 A社は、自社の未公開株式を購入した株主を対象に、「ガンを副作用なく治す」とうたうヨウ素水などを販売していた。顧客リストには、関口さんが把握する限り2~3万人が登録されており、数千万円を投資している大口株主もいた。株主の大半は、健康面に不安を抱える高齢者だったという。

 A社のビジネスがここまで広がった背景には、株主たちが親族や友人などを勧誘する「マルチ商法」のビジネスモデルがある。勧誘の動機は、成功した際の紹介料目当てだったり、純粋にA社の製品に心酔していたりとさまざまだが、その熱心な勧誘活動によって株主の数はねずみ算式に増えていった。

「A社は全国各地で健康セミナーを開き、未公開株の購入者を募っていました。セミナーの受け付けでは、誰の紹介で申し込んだのかを必ず確認します。これをしないと紹介料が払えなくなるので、聞きそびれた時はものすごく怒られました」(関口さん)

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だまし討ちに近い勧誘活動