AERA 2024年11月18日号より

多様化するキャリア

 息子は無事に有名私立小学校に合格。一方、子どもにきちんと向き合えていないように感じていた共働き家庭の子どもも難関小学校に合格していたという。

「働いているお母さんは、仕事で培った要領の良さが備わっていたのだと思います」。そう話す女性は23年に起業し、働き始めている。

「長男の同級生のママの中には『暇だから働き始めた』という人もいます。私の場合、社会的な役目を果たしたいという思いが強いので、時間とお金の余裕の有無にかかわらず仕事はしたい。その点は価値観が違うのだと思います」

 働き方やキャリアの積み方が多様化する中、この女性のように、専業主婦と働く生活を行き来する人も増えている。仕事を続けると、やりがいや面白みを見いだすようになっていき、職場が社会との接点となり、よりどころの一つとなっていく経験をする人も多いだろう。それは両者の溝を埋めるきっかけになるかもしれない。

 ソニー生命保険が定期的に実施している「女性の活躍に関する意識調査」などを担当するソニーフィナンシャルグループ金融市場調査部長の渡辺浩志さん(50)は、「既婚や子どもの有無などの回答者の属性が不明」と前置きした上で、こう話す。

「経年調査では、専業主婦を希望する数値は全体的に下がってきています。特にコロナを機にリモートワークが増え、仕事と家庭の両立がしやすくなったり、もしくは人とのつながりが希薄になったりしたことで、社会との接点を維持したいと思う人が増えたのかもしれません」

自分がどう生きたいか

 東京都の教育関連職の女性(48)は、子どもが小学生だった5年ほど前、専業主婦のママたちに尊敬の念を抱いたことが多々あった。

 PTAの会議の進め方がテキパキしていたり、短時間で大量の印刷物をきれいに揃えたりと枚挙にいとまがないという。

 女性が大事にしている価値観は、自分はどう生きたいのかを考えて、自分で選択できることだという。かつて体調を崩し、一時的に専業主婦状態だった時期を経験している女性は、専業主婦になりたい想いも、働きたい想いも尊重されるべきと考えている。

「世の中は仕事で結果を出している人の方が目立ちますが、子育てや地域の見守りをはじめ、パートナーが仕事に集中できるように家事全般を担うなど、専業主婦の人たちがいなかったら回ってない部分だって実はたくさんあります。そのことを、男女や立場関係なく、忘れてはいけないと思っています」

(フリーランス記者・小野ヒデコ)

AERA 2024年11月18日号 より抜粋

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