海外の賓客や要人と親しく交流し、人間関係を築くのも皇室の役割のひとつだ。そんな皇室の「あのとき」を振り返る(この記事は「AERA dot.」に2024年7月13日に掲載された記事の再配信です。年齢や肩書などは当時のもの)。
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「両国の友好親善関係が人々の交流を通じて深まってきたことや、英国の人々が日本に対して温かい気持ちを寄せていただいていることを実感し、うれしく思いました」。英国訪問を終えて帰国された天皇、皇后両陛下は、おふたりを迎えた英王室と現地の人びとへの感謝の言葉をつづった。かつて皇室に侍従として仕え、駐英公使を務めた人物は、今回の訪英を「ひとつの時代は終わり、皇室と英王室に新しい風が吹いた」と感慨を持って見つめていた。
ロンドンのバッキンガム宮殿へとつながる大通り「ザ・マル」を、天皇陛下とチャールズ国王、皇后雅子さまとカミラ王妃がそれぞれ乗った馬車は、騎馬隊の先導で走っていた。
天皇陛下とチャールズ国王は互いに顔を寄せ、親しく言葉を交わしている。
そして、沿道からの歓声に笑顔で手を振って応える両陛下と国王、王妃の馬車に、屋根はなかった。
テレビで流れたその光景に、元侍従で駐英公使も務めた多賀敏行・中京大学客員教授は目を見張っていた。
「日本と英国の間に戦争の傷痕が厳然として溝を残していた時代は、もう終わったのだと実感したのです」
天皇と皇后の馬車に背を向けた元捕虜の団体
平成の天皇、皇后両陛下が国賓として英国に招かれた1998年当時、多賀さんは宮内庁から外務省に戻り、駐英公使として赴任していた。現地で両陛下をお迎えするための人事だったという。
1990年代に入り「戦後50年」の節目が近づくと、英国では元捕虜らが日本に謝罪や補償を求める抗議行動が盛り上がっていた。