2020年の優勝時は、コロナの影響でパレードで祝うことができなかった。それ以前のコロナ禍中は、ドジャースタジアムが巨大なコロナワクチン接種会場となり、試合はもちろん中止に。LA市を含むLA郡では20年に8万1083人のコロナ死者が出て、病院では遺体を収容できるスペースが不足した。

 LA市民には外出禁止令が出され、門限を告げるアラートが携帯に。ジョージ・フロイド氏が殺害された後には警察と市民が衝突し、マシンガンを手に州兵が戦車で公道を走る光景も。

 そんな混乱期を経て、生き延びた市民たちが、今回の優勝を共に祝うことができたのだ。

大谷翔平選手の壁画の前で記念写真を撮影するドジャースファンたち=2024年11月1日(現地時間)、米・カリフォルニア州ロサンゼルス(撮影:長野美穂)

「だから今回は4年前の分もダブルで祝ってる」とマイケルさん。一家の一番のお気に入りは、キケ・ヘルナンデス選手だ。「僕らと同じ名字だし、キケの全力プレーにワクワクするよ」

 容赦ない批判がデイブ・ロバーツ監督に浴びせられる光景を見てきたブランカさんは「今回の采配は秀逸。でもドジャースの監督の仕事は、どんなに頼まれてもやりたくない」と言う。

 LAで生まれ育ったクラウディア・ソーンバーグさん(51)と息子のジャスティンさん(18)も生涯ドジャースファンだ。「東と西のライバル対決でやっとどちらがボスかはっきりして嬉しい」とジャスティンさん。幼い頃から兄と野球をして遊び、リトルリーグでも活躍した彼は、母と一緒にドジャースタジアムに行って観戦するのが「家族の伝統」だと語る。見たい試合を母が提案し、彼がスマホを駆使してチケットを探す。

クラウディア・ソーンバーグさんと息子のジャスティンさん。試合観戦はいつもふたりで一緒に行く=2024年11月1日(現地時間)、米・カリフォルニア州ロサンゼルス(撮影:長野美穂)

 88年の優勝パレードを15歳で体験したクラウディアさんは、小学校時代は一塁手のスティーブ・ガーヴィー選手に夢中だった。そのガーヴィー氏はいま、米上院代表を決める州選挙に出馬中だ。「選手として活躍した後に人々のために尽力していて素晴らしい」と彼女は言う。

 ドジャースの何が好きなのか、と聞くと「誰かが怪我すれば、皆が助ける。チームワークの力」とクラウディアさん。今回の優勝に貢献したテオスカー・ヘルナンデス選手の契約更新を彼女は強く望んでいる。「テオにLAに残ってほしい。彼はドジャースに来るために他球団のオファーを断り、それより低く提示されたLAの年俸を受け入れたほど。球団はもっと彼に支払って報いて」と言う。

 若い世代にMLB離れが広がっているとも言われるが、ジャスティンさんは「ドジャースの試合は九回の裏まで退屈しないから一度試しに観に来て。知らない観客同士がすぐ仲良くなれて、家族みたいな雰囲気だから。宿敵のパドレス戦やジャイアンツ戦は料金が高いからレッズ戦など安めの日がお薦め」と言う。

 クラウディアさんが幼い頃、彼女の両親はドジャースタジアムの一番安いチケットしか買えなかった。でも彼女はてっぺんの席から球場を見下ろすのが楽しくてたまらなかったという。「だから自分の子どもたちにもその素晴らしさを体験させてあげたかった。国籍、人種、体格、言語、すべてが違う選手たちが見せる魔法のようなチームワークを味わってほしくて」と語る。

「このサインの意味がわかるかどうかで、本当のドジャースファンか、にわかファンかが決まるんだ」と語る男性。「34」は、今年10月に亡くなったロサンゼルス・ドジャースの名投手、フェルナンド・バレンズエラの背番号=2024年11月1日(現地時間)、米・カリフォルニア州ロサンゼルス(撮影:長野美穂)

(在米ジャーナリスト・長野美穂)

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