
今年1月の訪米時に行った講演で、岸田首相は自身が行った安保政策の大転換について「吉田茂元総理による日米安保条約の締結、岸信介元総理による安保条約の改定、安倍晋三元総理による平和安全法制の策定に続き、歴史上最も重要な決定の一つ」と述べた。ある閣僚経験者はこう語る。
「一見、保守系へのリップサービスなのかとも受け取れるが、本音なのかもしれない。自分は岸、安倍と同じ流れにいるんだと宣言しているのではないか」
安保政策の大転換、原発回帰、そして改憲……これらを完遂し、歴史に名を残す。岸田首相が目指す到達点は、結局こうしたことだというのだ。
■重鎮引退すれば派閥分裂の兆し
だが、「一寸先は闇」が政界の常であるように、岸田首相の思惑どおりに事が進む保証はどこにもない。菅前首相の凋落の隙をついて岸田首相が権力をつかんだように、政権が逆風にさらされ、いったん政局になれば流れを止めるのは困難で、次々と後継候補が出てきたのが自民党の歴史だ。
「岸田首相が森山選対委員長を取り込んだのも、来年9月の党総裁選で再選するためだ。しかし、そのときに岸田氏が置かれた状況次第では、森山氏も見限るかもしれない。岸田首相はしょせん、党内第4派閥の会長。自派閥だけでは勝てないから複数の勢力の微妙なバランスの上に立つしかない点では、菅氏と似たような境遇だ。国民の中で不満が大きい物価高への対応などで結果を出せずに再び支持率が下落したら、同じ末路になりかねない」(前出の閣僚経験者)
こうした展開を、ライバルたちは虎視眈々と狙っているだろう。
何かのきっかけで支持率が下落に転ずるようなことがあれば、岸田首相は当然のことながら年内解散に踏み切ることはできなくなる。国政が混乱している中での改憲発議もあり得ない。来年も解散のタイミングを見いだせず、そのまま秋に総裁選を迎えることになれば、劣勢は否めない。
ただ、その先の展開を読むのは難しい。
目下のところ、岸田首相の「最大の敵」と目されている菅氏は河野太郎デジタル相をかつぐと見られているが、河野氏の党内の支持は限定的。菅氏自身の体調不安説もあり、求心力が落ちていると見る向きは少なくない。