となると、仮に来年1月からの通常国会で改正原案が提出された場合、議決が行われるのは秋の臨時国会。ここで可決されて憲法改正が発議されれば、そこから60~180日の間に国民投票が行われることになる。

 岸田首相自民党総裁任期は来年9月までで、来秋に行われる自民党総裁選と、改憲の発議に向けた議論の時期が重なることになる。ある自民党幹部はこう語る。

「一連の改憲プロセスの最中に首相をひきずり下ろすわけにはいかない。総裁選なんてやってる場合じゃない、となるわけだ」

 解散カードを切らずに握ったまま、自民党総裁選をパスして2期目に突入するという、まさに“禁じ手”的な裏技である。

 そこまでするのか……という話だが、現時点で自民党・公明党に日本維新の会や国民民主党も合わせた「改憲勢力」は衆参で3分の2以上の議席を保有している。3月2日の衆院憲法審査会では、維新の小野泰輔議員が首相の総裁任期を念頭に「遅くとも来年7月末までに国会発議をしなければいけない」と発言。岸田首相も、1月の衆院予算委で維新議員に改憲への工程表の提示を求められると、「国会でスケジュール感を共有しながら進める前向きな取り組みを期待したい」と語るなど、積極的な姿勢を示してきた。発議への道はじわじわ舗装されつつあるのだ。

 そもそも、元来は「ハト派」のイメージもあった岸田首相が、改憲に前のめりなのはなぜなのか。

 前出の政府関係者は、岸田首相の実像についてこう話す。

「党内ではリベラル・ハト派で知られる宏池会会長の岸田首相だが、宏池会の伝統や理念に対するこだわりは元々弱い。ハト派の仮面をかぶっているほうが有利だからそうしているが、実際は現実主義者。岸田首相の常套句である『その時々の状況に応じて、現実的に対応していきたい』にも、それがにじむ。自民党の岩盤支持層である保守系を引き付けるために安保3文書改定や防衛費の増額をやったと思われがちだが、案外、本心からそうした政策を進めているふしがある」

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