ボーイスカウトをしていた6年生の市川さん(写真/本人提供)

 欧州の木はあまり太くなく、柱の1本取りがなかなかできない。でも、集成材の技術が発達していて、板を集成すれば、すぐに柱にできた。また、欧州の木は節が小さいのでみた目がきれいだから、使途も広い。そういう木を、次々に買った。

 アムステルダム駐在は1年半で、96年6月に2度目のシアトル勤務となり、10月に出張所長になった。原木を扱うチームに2人、加工品チームに2人、現地採用の営業担当が2人、ほかに総務担当と事務員が各1人と部下は8人。環境保護がますます厳しくなり、部下にはもちろん、「フェアネス」を求める。

伐採から住宅建設へ転進を社長に提案米豪で市場へ参入

 一方で、本社の社長に新たな収益源として米国での住宅事業を提案。市場調査を経て、帰国後の2003年にシアトルで分譲住宅の販売を開始させた。07年に経営企画部長になると、豪州の住宅市場へも参入。「伐った木の数よりも多く植えよう」と、国内外での植樹事業も拡大していく。2010年4月に社長に就任。北米を中心にアジア太平洋地域などで、住宅建設と植林という会社を持続させる両輪の回転に、拍車をかけてきた。

 日本経済のバブルがはじけて30年余り。アナリストや経営評論家は、ROE(自己資本利益率)やROA(総資本利益率)と数字を並べて、企業経営の流れを株主が最も得する方へもっていった感がある。各種メディアも、それに乗ってしまった。

「時間を買う」と称するM&Aで手っ取り早く「擬似成長」を描いてみせるのが、本当の経営と言えるのか。でも、そちらの手際がいい人が経営者になり、自社の事業の現場を詳しく知らない、という例が少なくない。市川流は、現場第一を貫く。

 2018年、高さ350メートルの木造高層建築物を建てる技術を開発する、と発表した。木は「みために優しい」だけでなく、燃やしてもCO2(二酸化炭素)を吸収した量以上には出さない「環境に優しい」の価値も持つ。木造高層ビルの技術確立は2041年。別子銅山の開業から350年、ビルの高さにその年数を重ねる。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2024年10月28日号

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