日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2024年10月28日号より。
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1986年9月、木材営業本部外材部の米シアトル出張所へ着任した。米国西海岸のワシントン州のシアトル出張所は、北米の森林で伐採した原木を丸太のまま日本などへ送り出す作業の管理を受け持っていた。
着任して翌日、シアトル空港からカナダ上空を横切り、アラスカ州の南東部にあるケチカンの町へ飛ぶ。一泊し、水上飛行機に乗って太平洋寄りのロングアイランド島へ着いた。この島は、マツ科の良質なトウヒやツガが生息するだけでなく、近隣の地域で伐採した原木を船で運んでくる集材地だ。
日米で違う木材評価取引業者と重ねた節や木目の検分
同じ山林で伐(き)った木でも、生えていた場所や樹種によって、木質にばらつきがある。伐り出すときは、伐採権を持つ供給業者に用途を説明し、それに合った品質に揃えてもらう。米国では縦横が2インチ(5.08センチ)と4インチの断面の材木を標準とする「ツーバイフォー」の工法が主流で、木材は壁の中に隠れてしまうから、節や木目を気にしない。
でも、日本では柱や梁に節があったり、木目がきれいでなかったりすると、嫌がられて価値が落ちる。供給業者が持つ米国向けの等級との違いを説明し、ロングアイランド島で積み出す前に、一緒に丸太を調べて品質を検分した。
シアトルに5年4カ月、島を何度訪れたか、数え切れない。普段は管理人が駐在するだけ。でも、伐採や原木の持ち込みが続く早春から晩秋までは「キャンプ」と呼ぶプレハブの集落をつくり、作業員の家族が約200人住み込んで、臨時の学校までできる。
気をつけたのは、日本の景気が低迷し、住宅需要が落ち込んで日本からの発注が減ったときだ。当然、それまでと同じ量は買い取れない。でも、ゼロにはしなかった。量が減るときは早めに伝え、供給業者の経営が回っていけるだけは、品質が高い丸太を中心に何とか買った。