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 不正を告発した人を守る公益通報者保護法。企業に通報を理由にした不利益処分を禁じているが、現実には通報の報復として異動を告げられるケースもある。AERA 2024年10月21日号より。

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 一日中、何もすることがなく、机の前に座り、パソコンの画面だけを見ている。

「本当につらいです。拷問です」

 男性は、苦しい胸の内を何度も繰り返した。

 レトルトカレー「ボンカレー」などを製造販売する食品メーカー「大塚食品」の工場内での不適切な衛生管理を内部告発したところ、突然の異動を告げられ、1年以上報復に耐えている。

 男性は大塚食品の滋賀工場に30年近く勤め、長年、品質管理課で製品サンプルの品質検査に従事してきた。男性が会社の不適切な衛生管理に気づいたのは2021年11月。同社が委託製造する粉末スポーツ飲料「ポカリスエット」や「エネルゲン」の原料となる粉を一時的に保管するポリ袋から、樹脂粉等の異物が検出された。男性は工場長らに報告したが、会社は異物の原因や袋の安全性調査を行わず親会社の大塚ホールディングスや製造委託元の大塚製薬にも報告しなかった。同年4月には、品質管理室の流し台でパート従業員男性が複数回小便をしている事実も発覚していた。これに対し、工場長は適切な処置を取らなかったという。

 会社側の姿勢に男性は危機感を抱き、22年6月、滋賀県食品安全監視センターの外部公益通報窓口に通報した。同年6月から3度にわたり、監視センターは食品衛生法に抵触する恐れがあるとして工場に再発防止を指導。だが、会社は再発防止への周知も、職員への処分も十分に行わなかったという。

 22年11月、度重なる会社の姿勢に疑念を感じた男性は、自社の前社長とコンプライアンス担当者に実名で内部通報するも何ら対応はされなかった。翌23年3月、親会社、グループ会社への公益通報窓口に実名で通報した。すると4月付で、異動を命じられた。

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通報の報復としての異動「一切ない」と企業側