今、村上さんの作品を読み返したら、当時の自分とは違うことを感じるかもしれない。たとえば、作品には、好きだった女性が消えてしまったり、お互いに絆はあっても相手を急に失ってしまったりなど、愛する人が静かに心の中で生き続けるような状況が多いと思います。当時はその悲しい愛に共感していたかもしれません。
でも、人生を重ね、自分も表現者の一人となり、さらにコロナ禍を経験した今、もっと大事な人と会いたい、思いやりを持ちたい、そして同時に甘える勇気を持ちたいと思うようになっています。人とのつながりを、より大事にするようになりました。
村上さんの新刊が出るのは楽しみですね。自分はどちらかというと没頭するタイプなので、村上作品を読み終わったあとに、口調や使う言葉が変わっていたんですよ。それは恥ずかしいので、控えようと思います。あ、「やれやれ」は使っていません(笑)。でも、そういった独特な文体も魅力の一つですよね。
(構成/編集部・大川恵実)
※AERA 2023年4月17日号