AERA 2024年10月14日号より

「これが自分です」

――劇中で、沢田が繰り返し口ずさむ短いフレーズがある。明るいわけではないが暗くもない、どこか浮遊感のあるメロディーは、作品全体の空気感を象徴しているようだ。

堂本:元々、監督からは「沢田が口笛を吹くシーンを撮りたい」と言われていて、それでお芝居の中で自然に出てきたのが、あのメロディーなんです。僕が感じた作品の世界観や空気感を素直に表現したら、あれぐらいのテンション感になって。音楽だけじゃなく、平熱感と言うか、できるだけニュートラルに沢田を演じたいとは思っていました。それこそ彫刻作品でも、光の当て方次第で陰影が色濃く浮き出るけれど、光の強さや向きを変えれば、境界線が消えてしまいそうなほど薄くなるじゃないですか。だから、フラットに沢田を演じることで、逆に周りの人物のキャラクターや影がどんどん浮き彫りになっていくような。その対比で、沢田という人物像が見えてくるような芝居にできないかなとは考えていましたね。

――事故で腕を怪我したことで仕事をクビになった沢田は、あることがきっかけで描いた「〇」(まる)が美術界に認められ、一躍有名人となる。やがて、自分が本当に描きたいものと世間から求められる作品の乖離に苦しみ始める。

堂本:本来の自分と、周りから求められる役割のギャップに苦しむっていうのは、沢田だけじゃなくて誰しもあることだと思います。ただ、自分への期待ではなく、相手だけの視点で求められて苦しくなることもありますよね。他人の「こうであるはずだ」っていう視点や決めつけに頑張って応えようとしていたら、それは苦しくなって当たり前だと思います。だから、求めていただくのはありがたいけれども、「これが自分です」と伝えることや生きることは大切だと思います。「期待外れ」と言われるのであれば、寂しいけれどもう仕方がないと思います。自分の毎日は大切なものだし、誰もが人生は一度きりなんですから。

暮らしとモノ班 for promotion
大型セールAmazonプライム感謝祭は10/19(土)・20(日)開催!先行セール、目玉商品をご紹介
次のページ
ちゃんと悩んで生きる