「みいちゃんのお菓子工房」でのみずきさん(中央)

自分から前に出ていくようになった

 店舗兼工房では、客と対面して「固まらない」ように、曇りガラスの向こうで作業をしていたみずきさん。だが、施設を間借りして、客数を限定した「一日カフェ」を開くと、客側から丸見えのカウンターでお菓子を作ったり、並べることができるようになった。

「ある一日カフェのイベントで、私がお客さまへのあいさつに席を回っていたのですが、振り返ったらみずきが後ろにいて、びっくりしたんです。『あれ、ついてきてるやん。なんで?』って」

 一日カフェでサインや写真をせがまれると、自分から前に出ていくようになった。以前は考えられなかった姿だ。

本にサインをするみずきさん

 商品へのこだわりが強く、千里さんの意見は、ほぼすべて突っぱねるほど職人気質のみずきさん。殺到する予約に合わせて工房で「数」をこなすことではなく、店を開き、限られたお客さんに、こだわって作ったお菓子を食べてもらい、「おいしかった」などと生の声を聞き、笑顔に接する。

「お客さまの『熱さ』が伝わる。それがみずきにとってのやりがいなんだと確信しました」

 そんな大きな気付きを得て、最近は外でのイベントに営業をシフトしつつあるという。

 来年は最終学年になるみずきさん。経営をどう成り立たせていくか、直面する課題は少なくない。

 それでも、千里さんは穏やかだ。

「たくさんの反響をいただいて、忙しくなりすぎて冷静さを失って、それがしんどくなって、立ち止まって。いろいろなことが一巡して、やっと原点に戻れた気がします。細々でいいから、みずきが楽しく続けられるお店を作りたい。それが、すべての始まりだったんですよね」

 今、やっとスタートラインに立った。そんな風にも感じているという。

(國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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